京都大学霊長類研究所博士課程の柳興鎭(Ryu、Heungjin)と研究員らは、人間に最も近い類人猿である野生ボノボの老眼の進行が人間と非常に似ていることを発見した。これまで、読み書きなど現代社会の目の酷使が老眼の原因として指摘されてきたが、実際には老眼と大きな関連がなく、自然な老化の過程であることがうかがえるとした。

 今回の研究では、人間の身体の老化の現象でよく知られている老眼がボノボで発見されるか、そうであれば、どのように進むのかを人間と比較。人間では、焦点を合わせるのに必要な目・ターゲット間の最小距離は、年齢に応じて増加する。これは眼球レンズの屈折力の低下に伴い、40歳前後で焦点を合わせるのに必要な距離が急激に増加するためである。

 研究グループは、デジタルカメラと巻尺を用いてボノボの耳の長さを測定し、この耳の長さを利用してボノボが毛繕いをするときの目と指間の距離を測定。ボノボは毛繕いをするとき目と指の間に一定の距離を維持し、特に40歳を前後にして、その距離が著しく増加し、野生ボノボの老眼の進行が人間の老眼進行速度と酷似していることを発見した。これは、人間とボノボの目の老化の速度が共通の祖先から大きく変わっていないことを示唆しているという。

 これまで、老眼は野生のチンパンジーでも事例報告があったが、これを定量的に分析して人間と比較した研究は、今回が初めて。もし目だけでなく他の体の部位の老化も同様に起こる場合、人間の長寿命は進化的に選択されたものではなく、社会的・環境的な要因によって促進された可能性が高いといえるという。この研究成果は、2016年11月7日(米時間)に学術誌Current Biologyにて発表された。

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