慶應義塾大学の研究チームは、天の川銀河円盤部で発見された超高速度分子ガス成分「Bullet(弾丸)」の詳細な分子スペクトル線観測を行い、その詳細な空間構造・運動・物理状態を明らかにした。このBulletの駆動源が一時的に活性化したブラックホール(野良ブラックホール)の可能性があるという。

 研究チームは、太陽から約1万光年の距離にある超新星残骸W44の詳細な観測的研究を進めていた。1つの超新星爆発が星間ガスに与える運動エネルギーを精密に直接測定するためだ。その過程で、W44に付随する分子雲中に超新星残骸の膨張運動から大きくかけ離れた、空間的にコンパクトな高速度成分を発見。「Bullet(弾丸)」と名付けられたこの直径約2光年の高速度成分は、120km/sもの異常な速度幅と、天の川銀河の回転方向とは完全に逆方向の速度を持っていた(2013年に報告)。

 今回、研究チームはBulletの起源を探る目的で、分子スペクトル線による詳細なイメージング観測を行った。観測には国立天文台ASTE10m望遠鏡と野辺山45m電波望遠鏡を用いた。その結果、このBulletは5000年から8000年前に起きた局所的な現象によって駆動された成分と判明。Bulletの膨大な運動エネルギーと空間・速度構造、そして今現在この方向に天体が見られないことから、駆動源は一時的に活性化したブラックホールである可能性が高いという。

 現在、天の川銀河には、1億個から10億個のブラックホールが浮遊しているとされる。今回の発見は、これまで観測する手段のなかった、伴星を持たない野良ブラックホールの存在を示唆する極めて先駆的なものという。これによって、天の川銀河の中に無数に存在する同種天体の研究が進展することが期待される。

慶應義塾大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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