京都大学の鈴木俊法教授らの研究グループは、スイス連邦工科大学と共同で、水中に捕らえられた電子(水和電子)の最安定状態のエネルギーを決定することに成功した。

 放射線は生体細胞を損傷する。これは細胞の大部分をしめる水が放射線照射によってイオン化して電子を発生し、生成される不安定で反応性の高いOHラジカル(不対電子を持つOH分子)による遺伝子への攻撃が主と考えられている。

 OHラジカルが水中を拡散して化学反応を起こす速度は比較的遅いため、種々の研究例がある。しかし、電子運動は非常に高速なため不明な点が多い。電子は水中で運動するうちにエネルギーを失い、最終的に水分子の隙間に泡のような水和電子となって捕らえられるとされる。この水和電子がやがて水溶液中の分子に付着すると、還元化学反応を起こすが、反応性は水和電子のエネルギーによる。そのため,電子エネルギーを正確に知ることが放射線化学の解明に重要という。

 今回共同研究グループは液体の水に2つのレーザー光を当て、時間差で分子内の電子運動を観測する時間分解光電子分光という実験を行った。詳細な理論解析により、水和電子のエネルギーを正確に決定することに成功。その結果、これまで3.3電子ボルトとされてきた水和電子のエネルギーが3.7電子ボルトであり、従来の推定よりも安定した状態であることが分かった。

 今後は、放射線で発生する高エネルギーの電子がエネルギー緩和して安定な水和電子になる前に、分子に付着して還元反応を起こすのかどうかを明らかにする必要がある。また、現在の計算機の能力では水中の電子状態の正確な量子力学的計算は難しいが,将来的には理論計算にも取り組みたいとしている。

論文情報:【Science Advances】Genuine binding energy of the hydrated electron

京都大学

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