東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授の研究グループは、冠動脈ステント治療後に治療部分近くに生じる冠攣縮反応に対して、カテーテルで腎動脈交感神経を除去する治療が有効であることを世界で初めて報告した。

 現在、心臓の動脈(冠動脈)硬化が原因となる狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患に対して、カテーテルによる冠動脈ステント留置治療が行われている。この治療では治療部位の血管の再狭窄予防に薬剤溶出性ステントが主に使用されるが、数年経つとステントの両端に冠攣縮が生じることがあり、胸痛や場合によっては突然死に至るという問題点がある。

 今回、ブタの冠動脈に薬剤溶出性ステントを留置。ヒトと同様にステント留置部の両端に、冠攣縮の発生と交感神経線維の増加が認められ、ステント留置後冠攣縮に自律神経系の異常が関与していることが分かった。

 次に、全身の自律神経バランスを改善する作用を持つ腎動脈交感神経除神経(腎動脈周囲の神経切断)を行い、薬剤溶出性ステント留置後に生じる冠攣縮反応に対する影響を評価した。その結果、腎動脈交感神経除神経治療により、全身の自律神経のバランスが変化したことを血圧や筋電図を用いた神経活性評価で確認。さらに、ステント留置冠動脈での交感神経線維の増加が抑制されることを示し、最終的に冠攣縮反応が抑制されることを証明した。

 今回、腎動脈交感神経除神経治療が「腎‐脳‐心臓」という多臓器連関を介して、ステント留置後の冠攣縮に対する治療法となり得ることを世界で初めて示した。今後、ステント留置後冠攣縮や一般的な冠攣縮の病態解明や新たな治療法の確立、さらに多臓器連関の解明進展が期待される。

論文情報:【Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology】Renal Denervation Suppresses Coronary Hyperconstricting Responses after DrugEluting Stent Implantation in Pigs in Vivo through the Kidney-Brain-Heart Axis

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