東京大学の研究チームは、マクロな世界の基本法則である熱力学第二法則を、ミクロな世界の基本法則である量子力学だけを用いて理論的に導出することに成功した。

 熱機関や化学反応など多岐に応用され、私達の日常を支配する熱力学。中でもとりわけ重要な熱力学第二法則とは、エントロピー増大則であり、例えば室温の空気中に熱いコーヒーを放っておけば冷めてしまうが、逆に冷めたコーヒーがひとりでに熱くなることはありえないように、不可逆な変化を表す。

 一方、こうしたマクロな現象を構成する原子や分子といったミクロな構成要素の基本法則(量子力学のシュレーディンガー方程式など)には、時間反転に関して対称的であるという性質がある。すなわち、量子力学に基づくと、コーヒーが冷める時間変化が可能なら、冷めたコーヒーがひとりでに熱くなる時間変化も可能ということになり、矛盾が生じる。そのため、マクロで不可逆な世界とミクロで可逆な法則との整合性をどう理解するかは、19世紀以来の物理学の大きな難問だった。

 この古い難問に対して近年、量子力学と統計力学を用いての熱力学第二法則の理論導出が可能となっていたが、本研究では、統計力学の概念を使うことなく多体系の量子力学に基づいて第二法則を導出し、極微な世界を支配する量子力学と私たちの日常を支配する熱力学という二つの大きく隔たった体系を直接結び付けたことに大きな特徴がある。さらに、ゆらぎの定理と呼ばれる熱力学第二法則の一般化を、同様の設定で証明することにも成功した。

 本成果は、「時間の矢」とも呼ばれる不可逆性の起源を、量子力学だけに基づいて理解する大きな一歩となると期待される。

論文情報:【PHYSICAL REVIEW LETTERS】Fluctuation Theorem for Many-Body Pure Quantum States

東京大学

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