東北大学大学院医学系研究科の赤池孝章教授らのグループは、酸素の代わりに硫黄代謝物を利用した「硫黄呼吸」が、ヒトを含む哺乳類のエネルギー産生に関与していることを世界で初めて明らかにした。

 生物は、生命活動を維持するために酸素を利用してエネルギーを産生している。しかし、筋肉など酸素消費が大きい組織や悪性度の高いがんでは低酸素状態になることが多いため、酸素に依存しないエネルギー産生経路が存在する可能性が示唆されてきた。中でも硫黄分子は、酸素分子と類似した反応を行うことができ、ニンニクやタマネギといった食物、火山・温泉などの自然環境に豊富に存在しているため、その有力候補となっていた。

 これまでに赤池教授らのグループは、硫黄を含むアミノ酸(システイン)にさらに硫黄が付加された物質(システインパースルフィド)が、哺乳類の生体内で大量に存在することを発見。そして今回、システインパースルフィドのミトコンドリアにおける全く新しい代謝経路を発見し、硫黄代謝物がエネルギー産生の過程で酸素の代わりに利用されていることを明らかにした。

 この新しいエネルギー産生経路を「硫黄呼吸」と名付けた赤池教授らは、「硫黄呼吸」に必要な硫黄代謝物を処理できないマウスを作製。このマウスが、正常のマウスに比べ、成長が著しく悪くなることを見出した。これにより、「硫黄呼吸」が生命活動に極めて重要な役割を果たしている可能性を示唆した。

 今後、「硫黄呼吸」を自在に調節し、生体内のエネルギー産生量を増加させることができるようになれば、老化防止・長寿対策、肺気腫や心不全などの慢性難治性呼吸器・心疾患、がんの診断・予防・治療法の開発につながると期待されている。

論文情報:【Nature Communications】Cysteinyl-tRNA synthetase governs cysteine polysulfidation and mitochondrial bioenergetics

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