京都大学 教育学研究科明和政子教授、河井昌彦 医学部附属病院教授らの研究グループは、在胎32~37週未満で出生した早産児(早期産児)と満期産新生児の自発的な泣き声の特性を調査。その結果、早産児は満期産児より周産期(妊娠22週から出生後7日未満までの期間)の泣き声のメロディーのバリエーションが大きく、この特性を持つ児は1歳半時点の言語・認知発達が良好という新たな事実を発見した。

 これまで、乳児の「泣き声」は、新生児期から豊かなメロディーの特性(ピッチの時間変動)を示すことが報告され、生後、泣き声のメロディーのバリエーションが増加していくことは、言語を学習する上で重要であることが指摘されてきた。

 明和政子教授らの研究チームもこれまでの研究から、早期産児の泣き声は、出産予定日の時期に満期産児に比べピッチが高いことを明らかにしていた。しかし、「早産での出生経験が周産期の泣き声のメロディー特性にどのような影響をあたえるのか」、「この時期の泣き声の特性が乳児期以降の言語・認知発達とどのように関係するのか」については解明されていなかった。

 そこで研究チームは、予定日まで成長した早産児77名と生後1週間前後の満期産新生児30名を対象に、授乳前の泣き声をICレコーダーで収集し、音響解析を行った。その後、それぞれの児が1歳半に達した時点で言語や認知発達の評価を行い、泣き声の特性との関連を調べた。

 その結果、
・出産予定日前後の時点では、早期産児の泣き声は、満期産新生児に比べてピッチの変動が大きく、メロディーの複雑さの度合いも高い
・周産期の泣き声のピッチの高さ自体は、1歳半時点の言語・認知発達と関係しない
・周産期の泣き声のピッチの変動が大きい児ほど、1歳半時点で言語・認知発達が早く、特に発話できる語彙数が多い
以上のことが明らかになった。

 周産期の泣き声の特性評価は、言語発達のハイリスク児の検出に役立つと考えられ、機械学習(人工知能)分野との共同研究によって、より精度の高い検出が可能になることが期待される。その一方で、早期産児は学齢期以降、言語・認知発達に遅れが出やすいことや、発達障害の発症リスクが高いことを踏まえると、1歳半以降についても早期産児の発達をフォローアップしていく必要がある。

 現在日本では、先進国で唯一、早産児・低出生体重児の出生割合が増加の一途をたどり、科学的根拠に基づく早期からの発達評価、診断、支援法の開発が、臨床現場で強く求められている。

論文情報:【Frontiers in Psychology】Fundamental Frequency Variation of Neonatal Spontaneous Crying Predicts Language Acquisition in Preterm and Term Infants

京都大学

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