魚類やイモリなどの両生類は、驚異的な組織再生能力を持ち、四肢やヒレを失っても元通りの組織を再生することができる。組織の再生や恒常性の仕組みの解明は、近年の生物学における大きな課題の1つで、この解明により、ヒトの再生医療への応用の可能性が期待されている。

 今回、東京工業大学の研究グループは、ゼブラフィッシュのヒレの再生をモデルに、皮膚が完全に再生するための細胞群の働きを観察することに成功した。これまで、組織が再生する際、細胞がどのような仕組みで、どのような源から供給されているのかは、ほとんどわかっていなかった。そこで研究グループは、遺伝学的な細胞標識法により、再生組織の細胞を蛍光に標識し、長期にわたって追跡した。

 その結果、基底層の幹細胞や表層の分化細胞がそれぞれ増殖し、欠損部に供給されることで皮膚を再生していくことが明らかとなった。これは、従来考えられていたような、「傷口付近にある皮膚細胞が脱分化して幹細胞に戻り再生が始まる」という特殊なプロセスとは異なる結果だった。さらに再生過程では、皮膚の広範囲で細胞増殖が活性化しており、上皮細胞が多数供給されることでダイナミックに新たな皮膚が再構成されることも判明した。

 完全な皮膚再生が、脱分化のような特殊な方法を用いず、基底層の幹細胞などの自己複製で起きていることを示した本成果は、皮膚疾患の治療や再生医療に新たなヒントを与えるもの。ヒトを含む他の脊椎動物でも、この皮膚再生の仕組みが同じように働いていれば、基底層の幹細胞の自己増殖を制御することで皮膚の再生が可能になると考えられるという。

論文情報:【Development】Heterogeneous fates and dynamic rearrangement of regenerative epidermis-derived cells during zebrafish fin regeneration

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