名古屋大学の渡辺芳人教授らの研究グループは、大腸菌の中にある酵素のスイッチを「ONの状態」にすることが可能な化学物質を開発し、ベンゼンを常温常圧の温和な条件下でフェノールに変換する細菌を開発することに成功した。

 ベンゼンは、もっとも単純な構造を持つ安定な炭化水素で、ベンゼンを医薬品や染料などの原料になるフェノールに変換する工業的手法は「クメン法」が主流である。しかし、この方法での反応は高温高圧で行う必要があり、不要な副生成物である多量のアセトンが生成するため、ベンゼンを出発原料とする新たなフェノール合成法の開発が求められてきた。

 研究グループは今回、「シトクロムP450BM3」と呼ばれる酸化酵素を大腸菌に生合成させ、新たに開発した大腸菌に取り込まれる化学物質(疑似基質[注])を反応溶液に添加すると、ベンゼンがフェノールへと変換されることを明らかにした。この方法では、常温常圧の温和な条件でベンゼンをフェノールに変換できる。また、5時間の反応でフェノールの収率(フェノールに変換されたベンゼンの割合)は59%と高い。また、反応時間を調節することでフェノールがさらに酸化されたヒドロキノンを生成できる。

 今回開発した菌体内反応系は、常温常圧の温和な条件下で、ベンゼンを直接的、かつ選択的にフェノールに変換できることから、フェノールの新規合成法としての応用展開が期待できる。また、酵素を活性化する疑似基質を用いることにより、天然に存在する酵素をそのまま利用できるため、遺伝子操作で酵素自体を改変する必要がない。さらに、菌体の培養液に疑似基質を添加するだけで、ベンゼンを水酸化可能になる全く新しい概念の反応系を開発した。

注:酵素が対象とする化合物に構造がよく似たダミー物質。デコイ分子とも呼ばれる。

論文情報:【AngewandteChemie International Edition】Whole‐Cell Biotransformation of Benzene to Phenol Catalysed by Intracellular Cytochrome P450BM3 Activated by External Additives

名古屋大学

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大学ジャーナルオンライン編集部

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