認知症や、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病(PD)に代表される神経難病では、もの忘れなどの認知機能障害だけでなく、運動機能障害もしばしば出現する。しかし、その原因はわかっておらず、どちらの障害に対しても十分に効果的な治療ができていない。

 一方、紀伊半島南部には、「ALSに似た進行性の筋萎縮症」、「PDに似た運動機能障害」、「意欲低下が目立つ認知機能障害」の3症状を特徴とする認知症が多発しており、紀伊ALS/パーキンソン認知症複合(紀伊ALS/PDC)と呼ばれている。認知機能障害と運動機能障害の両方を伴う紀伊ALS/PDCの原因を解明することができれば、認知症や神経難病の治療・予防の開発にも役立つと期待されている。

 こうした中、量子科学技術研究開発機構と三重大学、千葉大学の共同研究グループは、紀伊ALS/PDCにおいて、脳内に蓄積するタウタンパク質(以下、タウ)が、もの忘れを含むさまざまな症状の原因となり得ることを明らかにした。

 紀伊ALS/PDC患者の死後脳を用いたこれまでの研究で、タウの脳内蓄積が確認されていたため、研究グループは、生体脳でタウを可視化する技術を用いて、紀伊ALS/PDC患者のタウ蓄積が多い部位と臨床症状との関連を調べた。その結果、認知機能障害が重度な紀伊ALS/PDC患者ほど、広範な脳領域にタウが多く蓄積しており、さらに体の動きをつかさどる運動神経線維が通っている錐体路のタウ蓄積が多い患者では、ALS様の運動機能障害が顕著であることが見出された。

 これらの結果は、タウの蓄積部位に関連した脳機能が障害されている可能性を示唆しており、脳内タウ病変を標的とした早期診断・治療が、認知機能障害と運動機能障害の両者の予防の実現につながることが期待される。

論文情報:【Neurology】Tau imaging detects distinctive distribution of tau pathology in ALS/PDC on the Kii Peninsula

大学ジャーナルオンライン編集部

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