JST戦略的創造研究推進事業において、東京大学大学院工学系研究科の香取秀俊教授(理化学研究所主任研究員)、理化学研究所のNils Nemitz(ニルス・ネミッツ)国際特別研究員らの研究グループは、異なる原子を用いた光格子時計を世界最高精度かつ短い計測時間で比較することに成功したと発表しました。

 現在、時間の計測にはセシウム原子時計を用い、誤差は3000万年に1 秒です。光の振動を使う原子時計に「光時計」があり、セシウム原子時計の100倍以上の精度が可能とされます。この光時計を実現する手法として、2001年に香取秀俊教授が提案した、レーザー光を利用する光格子時計があります。時間の高精度計測の確認には、同等以上の精度の原子時計2台で周波数比を比較することが必要ですが、従来は計測に数カ月もの時間がかかっていました。

研究グループは、イッテルビウム原子とストロンチウム原子を「魔法波長」という特別な波長で作られた光格子の中に捕獲・計測する光格子時計の手法を使って、計測時間を大幅に短縮して周波数を比較することに成功しました。この結果、現在、国際単位系の1秒の実現精度をはるかに上回る精度で周波数比を決定し、これまでの異なる原子時計比較の精度の最高記録を更新しました。宇宙の年齢(137億年)が経過しても、誤差は1秒以下とのことです。加えて、光格子時計の安定性をさらに向上させたことにより、これまでの最速計測時間より90倍も速い150秒で2台の時計の比較を実現しました。

このような超精密な時計比較は、次世代の時計としての信頼性を担保して新しい「秒」の定義へ移行するための推進力となり得ます。また、既存の手法では観測できない物理現象の探索を可能にし、新しい物理を切り拓く高感度な探索装置としても機能するとみられています。

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