東京大学大学院医学系研究科上田泰己教授と理化学研究所の共同研究グループは、カルシウムイオンが睡眠のメカニズムに重要な役割を果たしていることを発表しました。睡眠障害に対する診断・治療法の開発に繋がることが期待されます。本研究は、「Neuron」オンライン版に掲載されました。

 哺乳類の睡眠・覚醒の正確なメカニズムはまだ明確ではありません。不眠や過眠に対する診断法、治療法の開発には、睡眠・覚醒の仕組みを理解することが不可欠ですが、睡眠を直接制御する遺伝子は未解明のままでした。さらに従来の睡眠測定法は、電極を手術で頭蓋骨に装着しなければならず、侵襲が大きいうえに多くの時間とコストがかかります。

 本研究グループは、まず睡眠時にみられる特殊な脳波の形成に必要な遺伝子を特定するべく、神経細胞のコンピュータモデルを作製。細胞内にカルシウムイオンを取り込む①電位依存性カルシウムチャネルと②NMDA型グルタミン酸受容体、カルシウムイオン濃度によって働きを変える③カルシウム依存性カリウムチャネル、およびカルシウムイオンを細胞外へ放出する④カルシウムポンプという4つの遺伝子群が睡眠時の脳波形成に関係すると予測しました。

 この予測を実証するため、それぞれの遺伝子ノックアウトマウスを作製し、睡眠の測定を行いました。その結果、①および③のノックアウトマウスは睡眠時間の著しい減少を示し、④のノックアウトマウスは劇的な睡眠時間の増加を示しました。②については、薬理学的に働きを阻害して解析を行った結果、睡眠時間が減少することを確認しました。さらに睡眠が減少したマウスの脳を観察したところ、カルシウムイオンの流入が阻害されることで、大脳皮質の神経細胞が興奮することが示されました。このことからカルシウムイオンが脳を眠らせているということが今回明らかになったといえます。

 今後、これら睡眠障害マウスの研究が進むことで、うつ病やアルツハイマー病など睡眠障害を合併する疾患の原因解明、治療薬開発への貢献も期待されます。

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