ヤコブセン症候群患者に発症する自閉症の原因が、脳の神経細胞の活動を抑えるGABA受容体の運搬に関わるタンパク質「PX-RICS」にあることを、東京大学分子細胞生物学研究所中村勉講師、秋山徹教授らの研究グループが特定しました。今後、自閉症の新薬開発への展開が期待される研究結果です。

 自閉症は80~100人に1人の割合で発症する先天的な発達障害です。コミュニケーションにおける障害や、強いこだわり等の症状を特徴とし、特に「社会認知機能」と呼ばれる、他者に共感したりする脳の機能の障害が原因と考えられています。しかし、その発症の詳しい仕組みはまだ分かっていません。

 本研究グループは、大脳皮質・海馬など脳の認知機能に関連する領域の神経細胞に多く発現するタンパク質「PX-RICS」を同定、その遺伝子が欠損したマウスを作製しました。このマウスは外見的には正常ですが、自分以外のマウスに対する興味が少ない、音波域の泣き声を使った母子コミュニケーションが少ない、反復行動が正常なマウスよりも多い、習慣への強いこだわりがあるなど、自閉症の症状に特徴的な行動異常を示しました。さらに解析を進めたところ、正常なマウスではGABA受容体が神経細胞表面に発現するため社会認知機能は損なわれなかった一方、PX-RICS欠損マウスでは、GABA受容体の神経細胞表面への発現が損なわれたため社会認知機能に障害をきたし、結果として自閉症に類似した行動異常が現れることがわかりました。

 これらの結果から、PX-RICS遺伝子が、ヤコブセン症候群患者の半数以上に発症する自閉症の原因となる遺伝子であると特定されました。ヒトでは11番染色体長腕の末端部の欠失によりヤコブセン症候群を発症しますが、このときPX-RICSを含む領域が失われると自閉症も併せて発症するということになります。

 今回の研究で、GABA受容体の輸送と自閉症の発症との関係が明らかになりました。このメカニズムをターゲットにした薬剤の開発など、自閉症の新たな治療戦略を推し進める研究の展開が期待されています。

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