京都大学霊長類研究所の西村剛准教授らは、これまで原人と猿人の違いのひとつである「鼻の高さ」について、温度や湿度の調整機能に適応した結果であるという予測のもと研究を進めていました。ところが調査の結果、逆にヒトの鼻の温湿度調整能力はチンパンジーに比べてかなり劣るということが明らかになりました。初期人類である猿人とは異なる進化を遂げた原人が、その過程で鼻腔機能を劣化させたということになります。

 チンパンジーなどの類人猿から「猿人」が分かれ、その後「原人」がアフリカで現れました。その頃数種いた猿人などは激しい気候変動で絶滅しますが、原人の系統だけが生き残り、平らな顔と突き出た鼻を持つ私たち人間へと続きます。

 鼻には、吸った外気の温度や湿度を調整する役目があります。このおかげで冷たい空気が肺に入って器官を傷め、機能低下を招くのを防ぐことができるのです。原人は猿人とは異なる「突き出た鼻」をもっていたため、厳しい気候変動の中生き残ることができたのは、鼻の形状になんらかの機能的な利点があるからだという仮説を立てていました。

 そこで研究グループは原人モデルとしてのヒトと、猿人モデルとしてのチンパンジーの鼻腔のデジタルモデルを作成し、北陸先端科学技術大学院大学でシミュレーションを行いました。その結果、逆にヒトの鼻腔はチンパンジーと比べて温度・湿度調整機能が劣っており、突き出た鼻もほとんど役に立っていないということが判明したのです。

 鼻腔機能が猿人よりも劣っているにもかかわらず原人が生き残ることができたのは、平たい顔と同時に発達した長い咽頭で調整できたからではないかという予測も出されています。長い咽頭は原人が音声言語を獲得することにつながっていきます。鼻腔と咽頭が互いに補完しながら進化したことで、原人が気候変動の激しい更新世を生き抜き、さらに気候の厳しいユーラシアへと出ることができたのだと見られます。

 この結果を踏まえて、さまざまな環境に進出したサル類での鼻腔形態の進化・適応のプロセスを明らかにすること、ひいてはヒトの形態進化にさらなる新しい見解が出されることが期待されています。

京都大学

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大学ジャーナルオンライン編集部

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