金沢工業大学(石川県野々市市)工学部情報工学科の古田昂志さん(袖美樹子研究室、2016年3月卒業)が執筆した論文が、電気・電子分野における世界最大の学会「IEEE米国電気電子学会」の国際カンファレンスで採択された。この論文は学生による課外活動プロジェクト「Project One! ~農業イノベーション~」(※)の1年間の活動成果をまとめたもので、「Agricultural support system equipped with short-range wireless communication system」と題し、水田向けの農業支援システムを開発して地元農業法人の水田で試験運用した結果について書いている。2016年7月15~16日にインドで行われる「IEEE TIAR 2016」で発表する予定。

 日本の水田管理は、目視によって稲の生育把握し、経験や勘などに頼って行われる方法が主流であり、科学的な分析に基づいた管理はほとんど行われていない。稲の葉色や高さをモニタリングする機器は市販されているが、それらを使用するための電源設置などの導入費用が高額であり、管理に必須となる水田の画像を撮影・送信できないこと、3G回線を使ったデータ通信のランニングコストなどが課題となっていた。

 そこで今回学生らは、ICT技術によりデータを取得し、稲の生育状況・水田の状況を把握できるシステムを構想。モバイルバッテリー、カメラ、近距離無線通信「ZigBee」を使ったネットワークを用い、水田のモニタリングに特化した農業支援システムの開発を行った。水田の水位や稲の生育状況を把握する機器が無線でデータを送り、情報を一元的に把握することができる仕組みで、市販されている一般的な部品を用い、コストの安い無線通信方式を採用することで、開発・運用の大幅なコスト削減にも成功した。

 このシステムにより、人が水田に出向いて行なっていた水位や稲の高さなどの計測を一元管理できるようになるほか、他の機器と組み合わせることで、水位の自動調整など水田管理を自動化できる可能性が出てきた。今後は機器開発・運用の単価をさらに下げるための開発を行う予定で、将来的には安価な水田用のモニタリング機器の量産・市販化につながることも期待されている。

※:農業現場で発生している問題について、農学および情報工学といった複数分野を融合させ問題解決のプロセスを経験し、地域連携・産学連携による実践的な学習体験をする取組み。地元の農業法人と共同で活動を行なっている。センサネットワークシステムやデータマイニングシステムの構築、AI(アグリインフォマティクス)システムを通して、より実践的な農業ICTの学びの場を得るとともに、田畑の気象データや農作業データを効率的に管理・分析し、農業情報を創成することにより、地元農業の産業競争力強化に貢献することを目標としている。

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