普通の地震と比べ断層破壊がゆっくりと進行する地震現象を「スロー地震」と呼ぶ。強い揺れは伴わないものの、その多くは沈み込むプレート境界面上で巨大地震発生域に隣接し、巨大地震と共通のメカニズムを持つことから、強く関連性が示唆されている。

 東京大学地震研究所では、近年発見されてきたその特徴から、スロー地震とプレート境界に発生する巨大地震との関連性を整理し直し、発表。巨大地震に対して以下の3つの役割をもつ可能性があることを指摘した。

①Analog(類似現象):ETSと呼ばれるスロー地震の活動様式が巨大地震と類似し、また高頻度で発生することから、ETSを観測し発生様式において法則性を見出すことができれば、巨大地震の発生様式をも理解できる可能性がある。

②Stress meter(応力状態を反映するインジケーター):スロー地震は周囲の応力変化の影響を受けやすい。また巨大地震発生前にスロー地震の発生間隔が短くなるなど、その活動に変化が生じるという数値シミュレーションから、巨大地震の発生が近づくにつれ、スロー地震活動に何らかの変化が生じることは考えられる。

③Stress transfer(周囲への応力載荷):スロー地震に限らず、地震現象の発生は応力を再配分し、周囲に影響を及ぼす。2011年東北沖地震など最近になって報告されてきたスロー地震と巨大地震との関連性を示す観測結果から、スロー地震による震源域への応力載荷によって隣接する巨大地震震源域の断層破壊が促進さえる可能性がある。

 発見当初は特異な現象と思われていたスロー地震だが、この20年の間に世界各地で次々と検出され、その共通性や多様性が明らかになるにつれて、普遍的なものであることが明らかとなった。このゆっくりとした変形プロセスが、巨大地震の準備過程に関わっている可能性があると、今回の研究は示唆するものだ。今後スロー地震の活動を継続的にモニタリングし、その活動様式や発生原因の解明を進めることで、巨大地震の発生過程の理解が進むことが期待される。なおこの研究成果は「Science」に掲載された。

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