東京大学新領域創成科学研究科の松浦康平大学院生らは、これまで謎とされてきた、鉄系超伝導体セレン化鉄に圧力をかけると超電導に転移する温度が4倍以上に上昇する現象の原因を解明した。今回の研究は京都大学、中国科学院、オークリッジ国立研究所との共同による成果だ。

 「超伝導」は特定の物質を絶対零度(0ケルビン[K]=-273.15 ℃)付近まで冷却すると、電気抵抗がゼロになる現象。近年、高い温度(-200℃前後)で超伝導状態になる高温超伝導体が見つかっている。中でも、セレン化鉄は鉄系超伝導体の中でも特異な物性を持ち、特に、圧力を加えることで超伝導転移温度が4倍以上にまで上昇することが最近発見され、物性物理学の大きな謎の一つとなっていた。

 今回研究グループは、単結晶のセレン化鉄に高圧力をかけて電気抵抗の変化を追跡し、磁性が発現する温度や超伝導転移温度などを測定した。その結果、磁性は2万気圧付近で突如出現し、2~4万気圧付近までの圧力上昇とともに磁性発現温度も上昇し、4~6万気圧では下降、6万気圧程度で磁性は消失する。一方、超伝導転移温度は常圧~2万気圧付近までの圧力上昇とともに上昇するが、磁性出現後4万気圧付近まであまり上昇せず、4~6万気圧では磁性発現温度の下降とは逆に急激に上昇、6万気圧付近で常圧下9Kの4倍の38Kを示す。さらに圧力を上げると超伝導転移温度は下降していき、超伝導の消失が観測された。

 これにより、磁性と超伝導は競合関係にあり、磁性の抑制が高温超伝導実現の鍵であることが判明した。今回の研究は、高温超伝導発現機構の理解と常温付近での超伝導実現へ向けての大きな一歩になるとされる。

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