稲垣一郎( 神奈川県立湘南高等学校):神奈川県の中では特色を持たせないでやってきた学校で、SSH、SGH の指定も受けていない。文武両道を標榜しており、部活動加入率は、200 パーセントを超える。9月の体育祭は、開校(大正10年)より同じ理念(普く、絶えず、正しく、強く)で行われていて、国立高校同様、ストーリー性を重視している。先輩の細かい指導で日夜頑張り、終了後、受験モードへ転換する。保護者からは受験に間にあうのかと常に言われているが、今日お集りの他の公立進学校と部活や行事を大切にする点では共通しており、そこで培った力を活用して勉強に取り組み、実績もあげている。今後、匠といわれる教員が定年で抜けていくので、30代半ばの教員をどう育てるかが課題だ。

総長のお話の中で自由の前提には対話ということがあったが、それを重視するという点で本校の生徒の自主性の育成の取り組みと京都大学の学風には親和性があり、そのせいか、今年は12名がお世話になった。京都大学志望は東京大学志望者とほぼ同数だが、研究に魅力を感じている生徒が多い。本校も、OBが勧めにくるのが京都大学へ行く生徒の増加につながっているのではないか。地頭は神奈川トップと思っているから、更に京大進学者を10名は上げたい。

稲垣一郎校長先生( 神奈川県立湘南高等学校)

稲垣一郎校長先生( 神奈川県立湘南高等学校)


 
百瀬明宏(千葉県立船橋高等学校):(昨年度までは教育センターにいたが、千葉の生徒は全体的に、江戸川を越えようとしない、成田から飛び立っていないとの思いがある。)本校は理数科1クラス、普通科8クラスで、SSH には普通科も入れている。ただ普通科では、探究活動を3年になると止める生徒が多く、継続性がないのが問題だ。『甲子園を目指せ!進学校野球部の飽くなき挑戦』(タイムリー編集部)では、本校はまじめで人を絶対馬鹿にしないとあるように、高いレベルで切磋琢磨している。反面荒削りなところがない。70%が現役進学と学校依存型生徒が多い。部活加入率は120数%、京都大学には昨年は4名合格。今年も14、5名は受験する。やはり本校でも東大タイプ、京大タイプに分かれている。

百瀬明宏校長先生(千葉県立船橋高等学校)

百瀬明宏校長先生(千葉県立船橋高等学校)


 
鈴木政男(千葉県立千葉高等学校):英語の授業に関していうと、私が着任した時には日本語で教えていたが、一緒に着任した英語の教員が、同じ考えの教員と3人でグループを組んでコミュニケーションも入れ、3年まで継続して指導した。その結果、現3年の生徒はみな授業中に積極的に発言するようになり、ほかの教科の授業にもいい刺激になっているようだ。模試の成績も落ちていないから、今春の大学入試には期待が持てる。部活加入率は134%。入試改革については、本当に実現できるのかとずっと疑っている。しかし最近は、施策を行う側の本気度も感じ始めている。

鈴木政男校長先生(千葉県立千葉高等学校)

鈴木政男校長先生(千葉県立千葉高等学校)


 
山極:よく英語による発信力とコミュニケーション力を同一視することがあるが、私は分けて考えた方がいいと思う。英語を使って話すことでコミュニケーション力が付くことはあるが、コミュニケーション力は、相手の立場を考えたり気持ちを汲んだりしながら、自分の引き出しから材料を選んでそれを上手に使って話を作っていく能力であって、日本語でも訓練できる。

鈴木: そういう意味でのコミュニケーション力ということになると、課題のある生徒は結構多い。入学前も入学後も、実体験が不足していると思われる生徒が多く、もっといろんな体験をさせなければいけないと感じている。

山極:イギリスやドイツではプレゼン能力を重視して、大学や高校で練習をさせている。日本人は、意見は持っていても、ストーリーを頭の中で組み立て完結させ、それを人前で話す能力が弱いため訓練する必要がある。

鈴木:本校の英語の授業は、十分その役割を果たしていると思う。探究活動については総合学習で取り組んでいる。毎年9月の初めに成果発表会を行い、4分野で千葉高ノーベル賞を出している。昨年もお話ししたが、特色入試ではぜひみてほしい。京都大学とは校風が似ていることもあってか、今春は14名合格した。過去最高ではないだろうか。うち一人は特色入試である。

自由な校風といえば、入学式の後、生活指導部長(他校では生徒指導部長)が保護者に話をすることになっているが、今年は「自由とはやりたいことをするのではなく、自分で決めていくことだ」と熱弁をふるっていた。学びのコーディネーター事業では大学院生に3年連続で来てもらっている。また京都への修学旅行では、毎年宿泊先に、現役の京大生を呼んで話をしてもらっている。

杉山剛士( 埼玉県立浦和高等学校):校長になって4年目。本校は、タフで優しい共感力のある人間を育てることをモットーにしてきたが、いよいよその真価が発揮される時代になってきたと感じている。部活は盛んで、ラグビー部は花園へ出るなど全国レベル、出身者には京都大学のアメフト部で活躍する者もいる。国際化にも積極的で様々な取組を行っているが、ミシガン大学のサマーセミナーに参加する取組では、コーディネート以外はすべて生徒が行う。自由ということで言うと、教育には、グレー、ブラック、ホワイトがあると思うが、今はグレー部分、つまり個人の裁量に係わる領域が狭くなり、生徒は、本人が決めなければいけないことでも自分で考えず、権威の言うことに従う傾向が強い。

本校では、たとえば台風が近づいて来た場合でも、「自他の安全を確保して、あとは自分で考えるように」と本人の自主的判断に任せる。今の日本の教育には、自由とあわせて責任について教えることも大事だと痛感しているからだ。今夏、アメリカの11大学を駆け足で見てきたが、学生がみな、人生の構想力を身につけようとしていることにとても刺激を受けた。大学は、自分の強みは何か、それを活かしてどう大学や社会に貢献するのかを考えさせ、評価もしている。本校もそのようにしているとの自負はあるが、一人ひとりに本当に突き詰めて問うているかを考えると、まだまだ十分ではないという気がする。

高大接続改革のキー概念の一つは人生の構想力。高校ではそれをいかにつけさせるか腐心しているが、大学が特色入試などでそういう点も見ようとすることは、これまでの教育に風穴を開ける契機になると期待している。これまでみなさんのお話を聞いていると、湘南、西高はじめ、ここにお集りの学校からは同じにおいを感じる。

私自身、あらためて、みなさんの学校と共通する根幹部分を大切にし、自信をもって進化させていくべきだとの思いを強くした。京都大学には、今春、13人がお世話になるなど、近年はコンスタントに10人台をキープしている。原因の一つは修学旅行で京都へ行くことかもしれないが、グローバル化が進めば進むほど、修学旅行先としては京都に固執している。また、昨年2学期最後の校長講話で、この場で山極総長が話された、対話をしながら創造するという意味でおもろいことに挑戦しようという話を紹介させていただいたところ、今春、京都大学に合格した生徒が、「おもろい人間になってきます」と報告に来た。

杉山剛士校長先生( 埼玉県立浦和高等学校)

杉山剛士校長先生( 埼玉県立浦和高等学校)

 

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大学ジャーナルオンライン編集部

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