コンピュータの性能向上を予測する「ムーアの法則」によると、たとえば集積回路では、1年で同じ面積に2倍の回路を積めるようになります。数年間では、その性能差を体感できなくても、10年、20年では社会を変革するほどの大きな違いとなります。オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授は、2013年に発表した『未来の雇用』という論文の中で、人工知能の発展にともない10年後に機械化される職業を列挙し、雇用の在り方が変わると論じました。さらに、ムーアの法則通りに進むと、30年後の2045年にはコンピュータが全人類の知能をも超えて、現在からは想像もつかない変化が起きると考えられています。読者のみなさんは2045年のさらにその先を生きて行く世代です。いったいどんな時代が訪れるのか、日本における2045年問題の第一人者である松田卓也先生にお話を伺いました。

成長の限界にいかに立ち向かうのか

 ローマクラブの「成長の限界」の予想によると、世界経済は2020年をピークとして急速に落ちていき、2100年には、GDPは現在の10分の1まで下落します。日本では明治時代ぐらいの豊かさです。終戦後でさえ明治初期より豊かであったことを考えると、想像を絶する貧しさでしょう。これは産業革命以降の人類が初めて直面する困難です。成長に限界があるのは資源がなくなるからで、石油はもちろん、鉄などの再生可能ではない資源が不足します。

 その限界を突破するには、資源をできるだけ使わずに、生産性を伸ばすしかありません。これは人知の及ばない課題であり、人間の知能をはるかに超える機械超知能にしか解決できないと、私は考えています。

 超知能が生まれる科学史的瞬間を「シンギュラリティ(特異点)」と呼びます。それ以降は超知能が技術革新を担うため、人間には行方を予測できないことからこう呼ばれています。アメリカの未来学者カーツワイルは、2045年に、全人類と同じぐらい、つまり人間の10億~100億倍賢い機械が誕生すると予測しています。これがどのような存在なのか今のところ見当もつきません。

 

超知能を巡る楽観論と悲観論

 カーツワイルは、超知能ができると、環境汚染も食料問題も解決されて、さらに人間の死すらなくなるという極端な楽観論を主張しています。「テクノユートピア的世界観」です。

 一方、極端な悲観論は、映画「ターミネーター」「マトリックス」のように、人間がコンピュータに滅ぼされる、あるいは支配される未来です。宇宙物理学者のスティーヴン・ホーキングやマイクロソフト創業者のビル・ゲイツなどがこの立場です。私はこの立場を「ハリウッド的世界観」とよんでいます。

 私は、この極端な予測はどちらも実現しないと考えています。もちろん超知能はできるでしょうが、人類も存在します。危惧されるのは、ある国が超知能を独占し、世界覇権を握る、あるいは、富裕層だけが不死になって、一般大衆は悲惨な生活を強いられる映画「エリジウム」のような超格差社会です。

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大学ジャーナル編集部

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