前稿はこちら→「アクティブラーニングのテーマはどう選ぶべきか

アクティブラーニング(AL)を行えば座学が必要ないのか、あるいは、ALにおいて知識の提供をいかに行うべきなのかという問題は、特に多くの大学・高校教員の間で懸念されている問題であると思われる。結論を先取りして述べるなら、ALがAL単体として成立するとは思えないというのが筆者の見解である。すなわち、効果的・効率的なALを行おうとすれば、受講生に必要最低限の知識が必要となる場面は多々あり、そのような知識を得るには座学の方が効果的・効率的なことも多いというのが筆者の見解である。

 拙稿(「何故、アクティブラーニングがうまくいかないか」)でも指摘した通り、名ばかりのALであれば、受講生を集め、適当な題材を与え、時間内に議論させ、その議論の質が高かろうと低かろうとおかまいなしということもあるかもしれない。たとえば前稿(「アクティブラーニングに対する標準的疑問」)で挙げた中日ドラゴンズへの提案活動の場合でも、学生たちがその場で思いついたものを話すだけということで形式的にはALは成立してしまう。学生たちにとっては「中日ドラゴンズに提案してる俺たちって、すげぇ」と自己満足に陥ってしまうことすらあるだろう。しかし、そこで、学生たちが有していない知識を見極め、それを補うための指導が行われなければ、学習・学修効果は非常に乏しいものになってしまう。

たとえば筆者が担当するゼミ の場合、図表1の課題図書を課している。学生たちはこれらのうち5冊以上を読んでこなければ、企業との産学連携活動に参加することはおろか、ゼミに加入することも認められていない。ここにはマーケティングや周辺学問の基本的な知識を得たり、ディスカッションを行うために必要な論理思考を涵養するための図書が含まれている。このように、知識の修得をベースにしてALに移行することが、質の高いALには必要だというのが筆者の基本スタンスである。

図表1 2015年度中京大学総合政策学部坂田隆文ゼミ課題図書一覧

【必読】石井淳蔵『マーケティングを学ぶ』ちくま新書
【必読】苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社α新書
【必読】野矢茂樹『論理トレーニング〔新版〕』産業図書
【選択】石井淳蔵・廣田章光編著『1からのマーケティング〔第3版』碩学舎
【選択】石原武政・竹村正明編著『1からの流通論』碩学舎
【選択】伊藤宗彦・高室裕史編著『1からのサービス経営』碩学舎
【選択】恩蔵直人・富田健司編著『1からのマーケティング分析』碩学舎
【選択】加護野忠男・吉村典久編著『1からの経営学〔第2版〕』碩学舎
【選択】清水信年・坂田隆文編著『1からのリテールマネジメント』碩学舎
【選択】嶋口充輝ほか編著『1からの戦略論』碩学舎
【選択】高橋一夫ほか編著『1からの観光』碩学舎
【選択】谷武幸・桜井久勝編著『1からの会計学』碩学舎
【選択】中谷武・中村保編著『1からの経済学』碩学舎
【選択】西川英彦・廣田章光編著『1からの商品企画』碩学舎

あるいは、このように事前に課題図書を定めていなかったとしても、座学とALを併用するということは往々にして存在する。たとえば、ディスカッションのトレーニングのために「学生と社会人の違いはどこにあるか」というテーマでディスカッションを行わせることがある。その際、学生たちがあまりに「社会(人)」というものに対して疎いことがある。
すると、方法としては、(1)「各自で社会人○名にヒアリングしてくるように」といった課題を与える場合、(2)筆者自身が講義を行う場合、(3)図書を課す場合、という3つが考えられる。「1」についていえば、講義全体がALに徹したものになるということになるであろう。「2」に関していえば、以前筆者は、自身が企画・担当した講義が経済産業省の「平成19年度産学連携による社会人基礎力の育成・評価事業」に採用され、そこで社会人基礎力(社会で求められる基礎的な能力・資質)について相当量の研究をしたことがある。その経験から、講義というかたちで学生たちに「社会人になるとこのような能力・資質が求められることがあるんだ」といった講義を行うことも可能である。これなどは、ALと座学を併用した方法といえるだろう。「3」については、たとえば『キャリアデザイン入門[第2版]』(大久保幸夫、日本経済新聞社、2016年)のような本を紹介するといったことが考えられるだろう。

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中京大学
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坂田 隆文

坂田 隆文

中京大学総合政策学部教授、博士(商学)、中京大学教育推進センター委員会能動的学修検討部会部会長。名古屋大学、名古屋市立大学、金城学院大学非常勤講師。マーケティング戦略論、流通論、商品企画論を主な専門とし、「面白さ」と「わかりやすさ」と「有益さ」という3つを重視した講義・研修で定評がある。近著に『1からのリテール・マネジメント』(共編著、碩学舎)、『1からの商品企画』(共著、碩学舎)がある。近年では名古屋で若手企業人を集めた異業種交流勉強会を主宰するなど、活動の場を広げている。詳細は担当ゼミHP(http://www.sakataseminar.jp/)にて。