私は1971年に、心理学で博士号を貰った直後、シカゴ大学のブルーム教授の下に行って、形成的評価やマスタリー・ラーニング、教育目標のタキソノミー(Taxonomy:分類体系)について学びました。特に、思考力や問題解決力の中身と測定方法については、タキソノミーが良い勉強になりました。今でこそPISA(Programme for International Student Assessment:OECD生徒の学習到達度調査)型学力が問題にされ、この面についていろいろ議論されるようになりましたが、当時は日本でそういう研究をする人はほとんどいなかったと思います。一方、アメリカやヨーロッパではコンピテンシー(competency※4)などの概念に基づいて人間の能力を何通りにも分け、それぞれの面から多面的に評価するのが当たり前になってきていました。SATの記述式もそうした流れを受けてのものでした。

 1979年、マークシート方式による共通一次試験が始まり、1990年にはその後継となる大学入試センター試験がスタートしました。しかしじきに、新たな問題も出てきました。

 そもそも共通一次試験も大学入試センター試験も、大学で学ぶために必要な各教科の基礎知識を測るもので、各大学は個別に二次試験を行って、基礎知識にプラスして自分たちの求める資質能力が備わっているかどうかを把握して学生を選抜することになっていました。そのため、毎年、作問にはベストを尽くす。またクリエイティビィティーのある学生を取りたい大学では、難問、奇問を出す場合もある。

 ところが共通一次試験の導入には、大学独自の試験の軽量化を図る狙いもあったため、結局は各大学での工夫や努力が十分でなくなり、どの大学も共通一次に依存するようになってしまいました。このため、単一の尺度の下での一点を争う熾烈な競争の場ともなり、それが今回の廃止への一つの要因にもなったわけです。

 昨年末の高大システム改革会議は、大学入試希望者テスト(仮称)での記述式の導入で揺れましたが、私には40年前の経験が二重写しに見えました。専門家ではない人が掲げるエキセントリックな主張をマスコミが煽るという図式も当時のままです。

※1:非営利法人である「College Board」」が主催する標準テスト。
※2:2アメリカの心理学者ジョイ・ギルフォード(Joy Paul Guilford)博士(1897年~1983年)による『知能構造論』による。
※3:Benjamin Samuel Bloom(1913年〜1999年)。
※4:元々は企業などで人材の活用に用いられる手法で、高業績者の行動特性などと訳されている。
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大学ジャーナルオンライン編集部

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