キリスト教などの宗教的バックボーンがあり、意識するとしないとにかかわらず常に神と対峙しているアメリカ、ヨーロッパの人に比べると日本人は安きに流れやすいところがあります。だから道元は《只管》を大事にしたのだと思います。学習でも丸暗記、知識の詰め込み、これも大いに結構ではないでしょうか。それでは創造性が育たない、という言説は、これまで浮かんでは消え、また浮かんでくるエキセントリックな主張とよく似ています。ノーベル賞の受賞者にしても、若い時には基礎的な知識をきちんと習得してきたはずです。

 入試改革の話に戻れば、そもそも完璧な選抜方法というものはありません。どんな方法にも必ず欠陥はあります。逆説的な言い方をすれば、制度に穴があればあるほど、その間隙を縫って「自己実現的人間」が育つ可能性は高まるのです。今回の大きな変化をチャンスと捉え、そこから抜け出て飛躍する人は必ずいるだろうと思います。制度改革は大切ですが、制度的な枠組みにしばられるのではなく、教育ということ、人が育つということについての大きな展望を見失わないようにしたいと思います。

※6:1200年~1253年。鎌倉時代初期の禅僧。一般には道元禅師と呼ばれる。日本における曹洞宗の開祖。

 
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奈良学園大学 学長
梶田 叡一先生
京都大学文学部哲学科(心理学専攻)卒業。京都大学より『自己意識の社会心理学的研究』で文学博士号。国立教育研究所主任研究官、日本女子大学助教授、大阪大学教授、京都大学教授、京都ノートルダム女子大学学長、兵庫教育大学学長、環太平洋大学学長などを経て現職。他に、[学]聖ウルスラ学院(仙台)理事長・[学]松徳学院(松江)理事長2010年に神戸新聞平和賞、2012年に茶道文化賞(茶道裏千家淡交会)を受賞。【主な著書】最新刊は『不干斎ハビアンの思想』(創元社)【写真】。他にこれまで『和魂ルネッサンス』(あすとろ出版)、『〈お茶>の学びと人間教育』(淡交社)『自己意識の心理学』『子どもの自己概念と教育』(東京大学出版会)『教育評価』『新しい大学教育を創る』(有斐閣)、『教師力再興』(明治図書)『現代っ子ノート』(東京書籍)、『真の個性教育とは』(国土社)『基礎・基本の人間教育を』『〈生きる力〉 の人間教育を』『〈自己〉を育てる』『意識としての 〈自己〉』『自己を生きるという意識』『教師・学校・実践研究』(金子書房)、等多数。鳥取県立米子東高等学校出身。
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大学ジャーナルオンライン編集部

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