産官学連携教育を柱に

教育の内容や方法については、これまでにない新規な領域開拓に挑戦しようと考えていますが、その一つが、徹底した産官学連携教育です。本学は、産官学連携教育は今後の大学教育の重要な要素と考え、これまでも積極的に行ってきましたが、組織的な取組という点では決して十分ではありません。

日本では長らく、理系人材の就職は、大学側が企業に「こういう人材を育成したから採用してほしい」と推薦するのが一般的でした。それが大学推薦なしの公募中心になり、近年はまた、企業が即戦力を求めるようになり大学教育への要求が厳しくなってきました。原因は、グローバル化などによって企業間の競争が激しくなり、企業に社員教育をするゆとりがなくなったからだとされますが、大学側も、企業の求める人材を本当に育成できているのか問い直す必要があります。大学の学問・研究は、象牙の塔というほどではないにしても、いまだに保守的で、社会や産業界のニーズの変化についていけていないことも多いからです。

こうしたミスマッチの解消には、現場に学生を連れ出し、現場の人から生きた教育、訓練を受けることが一番です。大学の及ばないところを補完することです。現場が必要とする人材を育て育成するには、在学中に現場を知り、そのニーズも知っておくことが大事です。特に本学のような大学では、職務が専門分化している大企業に就職していくだけではなく、多様な職能が求められる中小企業へ行くケースも多い。中小企業は大企業以上に新入社員の研修に余裕がないのが一般的ですから、それに協力する必要もあるのです。

本学はこれまで、不断に大学教育改革を推進してきました。とりわけ、入試改革から初年次教育、キャリア教育の導入などにはいち早く取り組んできました。人文・社会科学系の学部においても、かつてのマスプロ教育から少人数教育へ、さらにはそれを一歩進めたテイラーメイド教育への転換も図りつつあります。

このように、地域とともに歩んできた本学にとっては、教育研究分野や方法が新しいというだけでは新たな教育研究組織を設ける理由として十分ではありません。大学には、学生の将来の生活や働き方を総合的に考える、確かな人間力を養うという役割もあります。少子化の進む今日、他大学との競争を意識するのではなく、地域の産業振興に貢献し、地域の若者の雇用を確保して地域に住む人々の生活を豊かにする。そのためには大学はどんな分野でどんな教育をすることが必要か。工学の立場から言えば、どんな専門技術、産業、生活環境があれば新しいワークライフスタイルを作ることができるのかまで考える。ここに大学本来の使命があるのだと思います。

宇宙航空理工学は、まさに学問、経済、地域の三拍子そろった発展に寄与するという意味で、本学にとってきわめて重要な課題であり、私たちは新学科の開設を通じて、新しい大学、学問の一つの作り方に挑戦したいと考えています。
 
山下 興亜先生

中部大学 学長
山下 興亜
1963年名古屋大学農学研究科博士課程中退。(専門:農学、資源昆虫学等)1990年名古屋大学農学部教授、1993年同農学部長、1998年同副総長を経て、2005年以降中部大学学長。日本農学賞、ルイ・パスツール賞、中日文化賞、紫綬褒章、国際昆虫学賞等を受賞。学部や大学の管理職として20年以上大学改革に従事し、大学を作り変えることの大事さと難しさを体感「。大学改革に王道はないが、社会や歴史を冷静に観察、独自の判断をもとに、試行錯誤の繰り返しで経験の数を増やすことで知恵と体力がつく」がモットー。この度の宇宙航空理工学科の設置構想もその産物の一つと言う。岡山県立津山高等学校出身。

 
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中部大学
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