人気プロサッカーチーム、ジュビロ磐田の本拠地、静岡県磐田市。JR磐田駅から南には、遠州灘に続く広大な平坦地が続く。その中心となる大池周辺は、市がスポーツエリアとして、天然芝のサッカーグランドをはじめ様々な競技施設を計画、急ピッチで今、その整備が進められている。その中核に位置づけられているのが静岡産業大学磐田キャンパス。現在、経営学部が置かれているが、2019年度には、その中のスポーツ経営学科を改組拡大し、静岡県初となるスポーツに特化した学部、スポーツ人間科学部(仮称)の開設が構想されている。キャッチフレーズは《スポーツを、解放しよう》。開設の狙いや目的、その背景、および教育・研究の特徴、目指すところなどについて、学部長予定者である経営学部教授の小澤治夫先生と同准教授の館俊樹先生の話を交えてご紹介する。

 

今なぜスポーツ人間科学か?

《スポーツを、解放しよう》のキャッチフレーズに見られるように、新学部が目指すのは、狭義のスポーツ観ではなく、楽しむこと、考えることを前面に打ち出した本来のスポーツ観に基づいた教育・研究の具体化とスポーツの推進です。

日本では往々にして、スポーツは楽しむことではなく、勝つこと、あるいは修行やしつけが目的とされ、子どもたちのスポーツに対する満足度も、ヨーロッパなどに比べて低いとされてきました※。また大学や社会人スポーツでは競技を最優先する仕組みが出来上がっていて、多くのスポーツパーソンが18歳と22歳でドロップアウトしていますし、オーバーユース、燃え尽き症候群なども深刻な問題です。新学部が《解放》という言葉に託したのは、これらを生んだ指導法やスポーツ教育の元にある現在の日本のスポーツ観、スポーツ文化からの脱却です。

若手教員を代表して館俊樹先生は、「優れた選手を育てることも大事だが、それはあくまでも結果。成熟社会を迎えた日本では、多くの人にスポーツを楽しんでもらうことが大事で、そのためには、競技力の向上だけでなく、コミュニティーつくり、レジャー、健康つくり等、多様なニーズに応えられる高度なスポーツ人材の育成が急務。また少年期、青年期における結果だけでなく、老年期に入ってもスポーツを続けられることを視野に入れた指導者の育成も重要」としたうえで、いずれの場合も人を中心に置くことが最優先にされるべきという意味から、学部名には《人間》を入れたかったと語ってくれました。

 

新学部開設の背景と経緯

現在、日本では、2020年へ向けてだけでなく、超高齢化社会や生涯スポーツ時代へ向けて、これまでになくスポーツへの関心が高まっています。そのため高度なスポーツ人材は、教員やスポーツ指導者に限らず、スポーツビジネス、行政のスポーツ振興など、活躍の場は広がると予想されています。またスポーツを続けてきた学生に対する企業の評価は相変わらず高く、スポーツ教育を受けてきた学生の受け入れ先は、今後も増えていくと考えられます。

また子どもの教育の観点からは、遊び場が減る中、部活指導も含め、学校体育の役割がますます重要になってくるだけでなく、地域で大人と子どもが一緒にスポーツを楽しめる環境を提供するという意味から、最新鋭機器を備えている大学には、地域のスポーツの中核を担う役割も期待されています。

新学部開設のもう一つの背景は、磐田が、ジュビロ磐田の本拠地という地の利。すでに経営学部スポーツ経営学科では、ジュビロ磐田と連携して、アスリートやスポーツ現場の指導者だけでなく、スポーツビジネスや地域貢献を目指す人材育成にも取り組んでいます。

※東海大学国際文化学部の中西健一郎准教授による「寒冷地域における青少年のサッカー振興に関する国際比較についての基礎的研究―-札幌地区とデンマークとの比較検討」では、「練習や試合に満足している」子供の割合が、デンマークの約96%に対し札幌は7%、「どちらかというと満足」まで入れるとほぼ100%対10%になっている。

 

 

《スポーツをはかる》を、新しいスポーツ教育、研究のモデルに

スポーツ経営学科ではこれまで10年近く、館先生を中心に若手研究者によってデジタルテクノロジーをスポーツの様々な場面で活用する研究が続けられてきました。その一つが《スポーツをはかる》取組。GPSを使って、センサーをつけたプレーヤーの運動量やスピードを計測するのもその一つで、これはサッカーなどの競技の分析だけでなく【図】、幼児や児童・生徒の指導にも活用できると期待されています。最近模擬的に行った小学生を対象にした鬼ごっこの実験では、ルールを少し変えることで、それまで動きの悪かった子の動きがよくなることなどがわかりました。

子どもの学校外での運動を増やすには、学校の体育の授業の活用が重要といわれていますが、運動能力の幅が大きい学校体育の現場では、運動が得意な子どもが運動量を増やし、苦手な子どもの運動量は少ないとの懸念もあります。そこでこうした研究をさらに深め、一つのクラスで、一定期間に全員が積極的に参加できるようなルールを考案できれば、これまでより多くの子どもたちが参加する喜びを味わい、自分にもできるという自己肯定感を感じ、さらにはリーダーシップを育むこともできるかもしれません。

スポーツ施設は充実しているものの、欧米に比べテクノロジーの導入では遅れをとっている日本。新学部には、このようにスポーツの概念を変えていくことにつながる研究をはじめ、その牽引役としての期待が集まります。

 

 

高校生へのメッセージ
――18歳から始める?《文武両道》

デジタルテクノロジーを使って、「スポーツを観る」「体を診る」「動きを視る」ための新しい手法の開発に力を入れようという新学部ですが、すべてをそれに任せきるという意味ではないと語るのは、体育教育に長年携わり、国や自治体の各種委員会にも関わりをもつ小澤治夫先生。大学で学ぶにあたって大事なのは、その知見を自分の頭で理解し、《からだ観》や《運動観》、つまり「自分の体とは何か」「それをどう作っていくか」などについての自分の考え、いわば哲学を確立することだと考える小澤先生は、「そこまで行きつかないと、いくらスポーツのパフォーマンスを上げても、大学で4年間学ぶ意味はない。体と同時に頭を鍛えるという意味での文武両道を目指してほしい」と、新学部を目指す生徒にメッセージを送ってくれました。

スポーツが好きだからと入学してくる学生の中には、中学・高校での勉強が足りていない者もいるといいます。しかしそんな彼らも、自分の好きなスポーツをきっかけに、大学の4年間でスポーツについて考え、それを科学する中で、どんどん伸びていく。館先生の言い方を借りれば、「《武》を媒体として《文》の世界に入っていく」のです。「18歳のポテンシャルを信じそれを開花させたいから、面倒見の良さではどこにも負けたくない」(小澤先生)と、《武》から入ってきた学生を、4年間で《文》にも強い若者にして社会へ送り出す。そんな新しい大学教育モデルに挑戦し、それを全国に発信していくというスポーツ人間科学部に注目したいと思います。

 

静岡産業大学経営学部
教授
小澤 治夫 先生
東京教育大学(現筑波大学)大学院体育学研究科修了。医学博士・体育学修士。筑波大学付属駒場中高校教諭(1978~2003)北海道教育大学教育学部教授(2003~2007)東海大学体育学部体育学科教授(2007~2015)東海大学大学院体育学研究科長(2010~2014)東海大学スポーツ医科学研究所教授(2015~2017)2008年〜2013年埼玉県スポーツ推進審議会会長。静岡高等学校出身。

 

 

静岡産業大学経営学部
准教授
館 俊樹 先生
早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程。人間科学修士。静岡県総合健康センター研究員。日本体育学会、東海体育学会、日本発育・発達学会所属。明治学院高等学校出身。

 

静岡産業大学

「ビジネス教育」で21世紀を担う人材を育成

社会で活躍するチカラを身につけることを静岡産業大学では「ビジネス教育」と呼んでいます。 「ビジネス教育」とはハウツーやノウハウを学ぶだけのものではなく、ビジネスの世界で自ら考え、行動して成果をあげるチカラを身につけることを目指すものです。そのため、静岡全域を[…]

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大学ジャーナルオンライン編集部

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