理化学研究所(理研)統合生命医科学研究センターゲノムシーケンス解析研究チームの中川英刀チームリーダー、古田繭子研究員、和歌山県立医大外科学第2講座の山上裕機教授らの共同研究グループは、再発性または多発性肝臓がんの病変について全ゲノムシーケンス解析を行い、発症した肝臓がんが、同じがん細胞に由来する転移による再発性のがんなのか、異なるがん細胞に由来する多発性がんなのかを、正確に診断することに成功した。
日本では、年間約4万人が肝臓がんと診断され、3万人以上が亡くなっている。B型やC型肝炎ウイルスに感染すると、慢性肝炎から肝硬変を経て、高い確率で肝臓がんを発症する。慢性肝炎や肝硬変は強い発がんリスクがあるため、同じ肝臓内にがんが独立して多発する可能性がある(多発性発がん、多中心性発がん)。また、手術などの治療後に転移として同じ肝臓内に再発してくることが最も多い(肝内転移)。このように肝臓内に多発して肝腫瘍が出てくることが多いが、これらの肝臓がんが、肝内転移による再発性肝臓がんなのか、もしくは多発性(多中心性)肝臓がんなのかを、臨床情報、画像検査、病理検査によって正確に診断することはいまだ容易ではない。
共同研究グループは、23人の肝臓がんの患者から発生した49個の再発性または多発性肝臓がんの病変について、全ゲノムの配列の解読を行い、同じ患者に発生した肝腫瘍で共通する体細胞変異の割合を調べた。その結果、同じ患者由来の二つまたは三つの腫瘍間で共通する変異が多い群(20~80%共通)と極めて少ない群(1%未満共通)とに明確に分かれ、共通する変異が多い群は肝内転移による再発性肝臓がん、少ない群は多発性(多中心性)肝臓がんと診断できた。このゲノム診断の結果と、手術前の臨床診断および病変の病理診断の結果は、約1/3の組み合わせで一致しなかった。しかし、転移性腫瘍は原発巣と共通したゲノム異常を持つので、ゲノム診断がより正確であると考えられる。
再発性/多発性肝臓がんの正確な診断ができるようになったことにより、今後、再発性/多発性肝臓がんの治療方針が変わる可能性がある。