筑波大学の上野健一准教授らの研究グループは、八ヶ岳連峰の西側山麓で早朝に出現する雲海の気象条件を明らかにした。さらに、中部山岳域において雲海が出現しやすい地域の特定にも成功した。
雲海とは眼下に海のように広がる雲(下層雲)の景観で、その場の天気ではない。雲海が発生する仕組みとして、下層雲の形成過程を当てはめた解説はあるが、雲海そのものを観測して気象条件や発生域を分析した研究はほとんどなかった。
今回の研究では、長野県諏訪郡富士見町の富士見パノラマスキー場にて、2017~2019年の3年間、暖候期の現地観測を実施。さらに、気象衛星「ひまわり8号」のデータも活用し、中部山岳域で雲海が発生しやすい日・地域を明らかにした。
分析の結果、現地で発生する雲海には、大規模なものと東側または西側に偏る小規模なものが存在すること、大規模雲海は早朝5〜6時に発生頻度が極大となることが判明。一方、東側に偏る小規模雲海は、八ヶ岳連峰に対する地形性滑翔雲※であることが示唆された。
また、中部山岳域における夜間下層雲の空間分布を経験的に検出するアルゴリズムを構築し、暖候期に下層雲が頻発しやすい12領域を特定。そのうちの6領域で同時に下層雲が発生した日(広域発生日)の67%で、沈降性逆転(下層ほど低温となること)の存在を確認。また、上層雲が少ない広域発生日には、大規模雲海が観測された。
以上から、中部山岳域の山間部で早朝に出現する大規模な雲海には、夜間の放射冷却とともに、総観規模の高気圧に伴う沈降性逆転の存在が重要であることを指摘した。今回の研究成果は、山岳気象と観光資源を結びつける新たな研究テーマの創造につながるものとしている。
論文は2021年8月31日、「地上観測および衛星データに基づく、中部山岳域における夜間の雲海発生傾向」と題して日本気象学会機関誌「天気」68巻に掲載された。
※山岳上に湿潤な気層が乗り上げる過程で雲が生じること。