近年、ミノムシが産生する糸は、天然由来のシルク線維としてはこれまで最強とされていたクモの糸を、弾性率・破断強度・機械的強度のすべてにおいて上回ることが明らかになっている。

 今回、筑波大学の後藤博正准教授らは、ミノムシの糸が光学活性な物質であることから、電池用電極や導電性インクなどに用いられる導電性高分子ポリアニリンとミノムシの糸を組み合わせることにより、ポリアニリンにミノムシの糸がもつ性質を付与するとともに光学的にも活性な繊維材料を作ることを試みた。ポリアニリンは、原料が安価で簡便に合成できる一方で、光学活性をもたない。また、液体に溶解させたり熱加工したりすることができないため、応用範囲を広げるためには、他材料との複合化が求められる。

 ミノムシの糸を水中に浸し、その水中でポリアニリンを合成することで、単純な方法ではあるが、ミノムシの糸の表面にポリアニリンが吸着した複合繊維を生成することができた。この複合繊維は、研究者らの狙いでは、ミノムシの糸がもつ強度と、ポリアニリンがもつ電気伝導性や磁性を併せ持つと考えられる。実際に、得られた複合繊維は、繊維方向に異方性のある電気伝導性をもつことがわかった。また、緑色レーザーを照射すると、繊維に沿ってレーザー光の伝搬がみられたことから、複合繊維が光ファイバーのような光導波路としての機能をもつことが見出された。

 さらに、この複合繊維を用いて、電圧により電流を制御できる繊維型の電気化学トランジスタを作成することもできた。磁気測定においても、導電性高分子に典型的な「パウリの常磁性(温度変化によらず一定の磁化率をもつ現象)」と呼ばれる性質が認められた。

 以上から、本研究でミノムシの糸とポリアニリンから合成した複合繊維は、十分な力学的強度と導電性や静電防止機能をもつシートやワイヤーの開発などに応用されることが期待される。

論文情報:【Journal of Applied Polymer Science】Preparation of Bagwormsilk/polyaniline Composite

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