Neuroscience: Personalized spinal cord treatment rapidly restores motor function after complete paralysis
感覚運動が完全に麻痺した3人の患者に対し、脊髄損傷に合わせて特別に設計したへら状の電極を使って個人に合わせた脊髄への電気刺激を行うと、治療開始後数時間以内に、自力での移動運動が再びできるようになることが明らかになった。この知見を報告する論文が、Nature Medicine に掲載される。今回の知見は、最も重度の脊髄損傷を受けても、用途に特化した電気刺激治療なら優れた効果が上がり、より多様な運動機能が回復することを明確に示している。
脊髄の電気刺激は、脊髄損傷患者の運動機能を回復させる治療法として有望な選択肢である。これまで行われてきた方法では、元々痛みの治療用に設計された技術を転用して、患者の脊髄に継続的な電気刺激を加えていた。しかし、このように電気刺激装置を転用した場合、脚や体幹の動きに関わる脊髄の神経全てを刺激することができず、それが制約となって全ての運動機能を回復できない可能性がある。
今回、Grégoire Courtine、Jocelyne Blochたちは、脚と体幹の動きに関係する脊髄中の全ての神経を標的にできる新しいへら状の電極を設計した。この技術を個別化されたコンピューターによる枠組みと組み合わせることにより、このへら状電極を各患者に合わせて正確に配置し、活動に応じた刺激プログラムを患者ごとに組むことが可能になった。この最適化脊髄刺激法により、完全な感覚運動麻痺の患者3人(全員男性、年齢は29歳~41歳)において、自力歩行や他の移動運動(自転車走行、水泳)がわずか1日で急激に回復することが分かった。さらに神経リハビリテーションの助けを借りて、患者たちはこれらの活動を実生活の中で行うことができるようになった。
これらの知見(現在進行中の臨床試験の一部)から、用途に特化した個別化脊髄刺激法の優れた効果が明確になり、重症度のさまざまな脊髄損傷患者に臨床的に意味のある改善をもたらし得る治療法が示された。
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「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
※この記事は「Nature Japan 注目のハイライト」から転載しています。
転載元:「神経科学:脊髄の個別化治療によって、完全麻痺後の運動機能が急速に回復する」