高齢者1人当たりの介護費の地域格差が2019年度に最大で4倍に上ったことが、筑波大学医学医療系の田宮菜奈子教授らの分析で分かった。介護保険制度が2000年に導入されて以来、介護費の地域差がしばしば指摘されてきたが、それをあらためて証明した格好。
筑波大学によると、調査は2019年度の厚生労働省「介護保険事業状況報告」、総務省「社会・人口統計体系」のデータを使い、人口2,000人未満の小規模自治体や複数の市町村が集まって運営する連合組織を除いた全国1,460自治体の高齢者1人当たりの介護費を算出した。
その結果、高齢者1人当たりの年間介護費は最小約13万円~最大約55万円で、4.1倍の格差があることが分かった。自治体ごとの年齢や性別の分布を統計学的に調整しても、地域格差は3.6倍に達し、年齢や性別だけで説明できない地域差の存在がうかがえる結果となった。
この大きな差は田宮教授らの解析で要介護認定率と要介護度3~5の重度要介護者の割合で大部分を説明できることが明らかになった。
日本の介護保険制度は基本的に介護費の1割を利用者が負担し、残りを介護保険料と税金で半分ずつまかなっている。市区町村の負担は税金の4分の1だが、負担の大きい自治体では財政の硬直化など深刻な影響が出ている。
田宮教授らは、この調査結果を基に介護予防などの対策で要介護認定率や重度要介護者の割合などを改善することにより、介護費を下げられるのかどうか検証する必要があるとしている。
なお、本研究にあたって収集・整理した一般公開情報を用いて、筑波大学ヘルスサービス開発研究センターと筑波大学発ベンチャーの輝日株式会社は無料アプリ「あなたの街の介護が見える」を開発、公開した。市町村の名前を入力すると介護費や要支援・要介護者数、認定率など介護に関する統計がランキングで表示され、各自治体の介護の実態を把握することができる。
論文情報:【BMC Public Health】Regional variation in long-term care spending in Japan
参考:【筑波大学ヘルスサービス開発研究センター】無料アプリ「あなたの街の介護が見える」