信州大学の風間茜さん(博士課程学生)と高坂泰弘准教授は、頭痛薬の主成分であるアスピリン(アセチルサリチル酸)から、多様な循環型プラスチック(ケミカルリサイクルが可能なプラスチック)を合成する技術を発表した。
本発表は、高坂准教授らが以前に報告した、リサイクル容易なビニル系プラスチックの技術を発展させたもの。プラスチック総生産量の7割を占めるビニル系プラスチックは、安定で分解しにくく、恒久的な資源再生につながる化学的再合成“ケミカルリサイクル”が困難なことが課題である。しかし、ビニル系プラスチックの主骨格である炭素-炭素結合の切断を容易にする新しい分子構造を見出したことから、2019年、アスピリンを原料として、高効率なケミカルリサイクルが可能なビニル系プラスチックの合成に成功した。
今回の発表では、まず、2019年の報告の実用化を後押しする、ビニル系プラスチックの高速分解技術を実現。従来は数日間の加熱を要していたが、強アルカリ性条件では、ビニル系プラスチックが5分以内に完全分解することを突き止めた。
さらに、アスピリンから、主骨格に酸素を含むプラスチックであるポリエステルの合成にも成功した。このポリエステルも、強アルカリ処理によりすぐに分解し、原料物質(アスピリンの原料である酢酸+サリチル酸)を再生できるとしている。また、反応温度を調整すれば、組成の異なる多様なプラスチックを誘導できることも見出した。
このように、本成果により、アスピリンという共通の原料から複数種のプラスチックを製造し、加えて、それらのプラスチックをまた共通する原料に高速分解するという、効率的な資源再生を達成可能である。脱化石資源やプラスチックごみの削減につながる理想的な資源循環システムとして、今後の実用化が期待される。