中部大学の津田一郎教授が1987年に提案した数理モデルが、海外の数学者らによって証明された。このモデルは人が脳で連想記憶を行う機構の一端を説明するもので、当時の数学的手法では証明できなかった。今回、ブラジル・リオデジャネイロ連邦大学の数学者らが、コンピューターを用いる数値シミュレーションで検証に成功し、初めて数学によってモデルの正しさが明らかになった。
脳は目、耳、鼻、舌、皮膚から受ける刺激を情報として記憶する際、過去の記憶を参考にして新たな入力情報が何であるかを連想する。例えば、かじったリンゴを見てもリンゴだと連想し、レモンを見ると酸っぱいと連想して新たな記憶として留める。
31年前、津田教授は大脳新皮質内のニューロン(神経細胞)のネットワーク構造を模擬した神経回路モデルで連想記憶の研究に着手。神経回路には記憶に達する途中の状態(疑似アトラクター)が一時的に留まり、複数のニューロン間をカオス(無秩序)的な状態で行き来しながら最終的に秩序のある記憶になる数理モデルを提案し、数値シミュレーションを実施。しかし、無限小数の有限化や四捨五入などの誤差により立証はできなかった。今回、誤差内に真の解があることを保証する数学的手法で数理モデルが正しいことが証明された。
津田教授は京都大学の博士課程学生時に、連想記憶の数理モデルに結び付く数理モデルを提示。これは、カオス的な状態にノイズを加えると秩序を持った状態に変化するというもので、2017年にイタリア・ピサ大学の数学者らによって数学で証明された。数学で証明された2つのモデルが今後の脳科学研究やAI(人工知能)研究に役立つと期待される。
論文情報:
1987年【Progress of Theoretical Physics】Memory Dynamics in Asynchronous Neural Networks(PDF)
2018年【Mathematics】Chaotic Itinerancy in Random Dynamical System Related to Associative Memory Models(PDF)