富山大学エコチル調査富山ユニットセンターの笠松春花リサーチコーディネーターらのグループは、父親の労働時間の長さと育児行動の頻度の関連を検討し、父親の労働時間が長ければ長いほど育児行動をしない傾向があることを見出した。
近年、母親がひとりで育児や家事全般をこなす状況が「ワンオペ育児」と呼ばれ、問題視されている。本グループは、以前の研究報告で、母親のみのワンオペ育児になってしまうと、母親の心理的苦痛が高まる危険性も指摘している。
今回、父親の育児行動を妨げる要因として、父親の労働時間に着目し、「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」に参加する43,159組の夫婦から情報収集を行うことで、父親の労働時間と育児行動の関連を検討した。
父親の労働時間は、1週間当たりの就業時間について父親自身が回答した結果を用いた。父親の育児行動は、「おむつ替え」、「お風呂に入れる」、「寝かしつけ」などの7項目とし、子の生後6か月頃に父親がこの7項目に取り組む頻度について母親が回答した結果を用いた。
その結果、調べた7つの育児行動はいずれも労働時間が長いほど「しない」状況が増えることが確認された。特に、週65時間超働いている父親では、どの行動も「しない」率が高かった。
本解析対象者約43,000人の父親のうち、労働時間が週55時間超65時間以下の人が16.2%、65時間超の人が15.2%いた。本データの取得時(2011~2014年)は、1週間の法定労働時間を40時間とする法改正(2019年)の前であるため、現在は当時よりも人々の労働時間が短縮されている可能性があるが、データ当時に現在の法定基準以上の労働をしていた父親たちは、子育てに割く時間が非常に制限されていたことがうかがえる。
本研究は、父親の労働時間が子育て行動に関連するという肌感覚に近い結果を、実際に日本全体をカバーする大規模な研究集団から示した貴重な成果である。今後は現時点の父親の労働時間と育児状況についても改めてデータを収集するなどし、育児期の父親の適切な労働時間を検討するとしている。