精神科での作業療法は、その治療効果や機序の説明が難しいとされている。例えば、作業療法の特徴的な点として、作業活動(例:手工芸活動)や集団もその治療構造に含まれていることが挙げられ、作業を集団で行うことにより、幸福感や自己効力感が高まることや、日常生活がスムーズに改善することなどが報告されている。しかし、これらの生理学的な効果については明らかにされていない。
今回、大阪公立大学と大阪河﨑リハビリテーション大学のグループは、これまで作業療法として有効とされている、「パラレルな場」(同じ部屋で他者が存在しながらも各自が別の作業を行う)での手工芸活動に着目し、その効果を脳波と自律神経活動の観点から検証した。
健常者30名を研究対象とし、手工芸活動を行う条件を「1人」、「2人で各自の作業(パラレル)」、「2人で作業者と非作業者(観察者)」の3つに分け、作業中の脳波と自律神経活動を測定し解析した。
その結果、手工芸活動の進み具合は条件間での差がなかったが、「2人で各自の作業(パラレル)」で、リラックス効果を表す副交感神経活動が「1人」に比べて有意に高まっていた。また、集中状態の指標となるFmθの脳波が出現した人は、出現していない人よりも副交感神経活動が有意に高まることも明らかとなった。
以上から、作業療法の治療構造である、2人で場を共有した「パラレルな場」において、直接触れたり話したりせずとも一緒に、また集中して各自が作業に取り組むことが、副交感神経を有意に高め、緊張の緩和やリラックスの観点で有効であることが示された。臨床現場において、緊張や不安が強い対象者への作業療法では、「パラレルな場」を設定することがそれらの軽減に効果を発揮する可能性があるといえる。
今後は、精神疾患を有する方を対象とした実験や、3人以上の集団での実験などを通して、対象者の特性に応じた集団での作業療法の効果をさらに検討していくという。