明治大学と鳥取大学の研究グループは、人工染色体導入技術および体細胞クローニング技術を活用し、ヒト人工染色体を導入したブタの作出に世界で初めて成功した。
ブタは、ヒトとの解剖学的・生理学的類似性から、マウスで再現できないヒトの病態も忠実に再現するなど、多くの医学研究において有用性が高い。とりわけ遺伝子改変ブタは非常に重要な研究リソースであり、病態モデルブタをはじめ多くの遺伝子導入ブタが作出されてきた。しかし、非常に巨大な(数百万塩基対の規模の)遺伝子を導入したブタの作出についてはいまだ困難であり、大きな課題となっている。
本研究では、巨大遺伝子や複数遺伝子の画期的な運び屋となりうるヒト人工染色体に着目した。非常に巨大なヒトジストロフィン遺伝子全長を搭載したヒト人工染色体(DYS-HAC)を用意し、染色体導入技術(微小核細胞融合法)によりブタの線維芽細胞に導入した。さらに体細胞クローニング技術により、DYS-HAC導入細胞を核ドナーとしてクローン細胞を生産することで、全身にDYS-HACが導入されたブタを作出することに成功した。
遺伝性疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を発症するブタにこれを応用することで、ヒト人工染色体によるDMDの治療効果を検討した。通常、DMDを発症するブタは生後1か月以内に約75%が死亡するが、本研究で作出したDYS-HACブタ4頭は、1ヶ月齢時で全頭が生存した。筋肉では、DYS-HAC由来のヒトジストロフィンの発現が観察され、後肢運動機能の回復など有意な病態改善も認めた。
本研究により、人工染色体が導入されたブタの作出に世界で初めて成功したことで、遺伝性疾患の治療に対する人工染色体の有用性が示唆された。また、巨大遺伝子を導入した遺伝子改変ブタの創出が可能となったことは、大きな可能性を秘めており、新たなヒト疾患モデルブタを用いた治療法の開発や、再生医療・異種移植などの医学研究が加速することが期待されるとしている。