大分大学医学部医学科微生物学講座・グローカル感染症研究センターの西園晃教授と、同センター客員教授であり長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点の齊藤信夫准教授らは、フィリピンの狂犬病患者の感染原因を詳細に検討する研究を実施し、子犬が最も主要な原因動物であることを突き止めた。
フィリピンでは、年間200~300人が狂犬病で亡くなっている。新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの影響で、動物の狂犬病ワクチン接種率が低下したことで、近年、狂犬病の発生はさらに増加している。現在のフィリピンでは、年間100万人以上が動物咬傷後の狂犬病発症予防のためのワクチンを接種しており、経済的負担ともなっているという。
本研究では、3年間の前向き患者登録研究から151例の狂犬病患者の感染原因(原因動物の年齢など)を検討した。その結果、ヒトへの狂犬病感染の原因動物が、成犬ではなく子犬であることを確認したという。
この事実は、子犬への狂犬病ワクチン接種方法に問題があることを示唆しているとしており、本研究グループは全世界での子犬へのワクチン接種方法(ワクチン接種レジメ)の早急な見直しが必要であることを強く提唱した。
狂犬病は世界中で蔓延している恐ろしい感染症だが、狂犬病ワクチンや狂犬病グロブリンの接種により、発症をほぼ100%防ぐことができる。これらの対策に加えて、狂犬病蔓延国では動物とのむやみな接触を避けること、もし咬まれた場合は、たとえ軽症であってもすぐに咬傷部位を15分以上洗浄し、動物咬傷外来を受診することが、狂犬病のリスクを減少させるために重要である。
本研究による報告は、狂犬病予防の方針や、動物咬傷への意識を大きく変えることで、今後の狂犬病予防に貢献することが期待される。