ツキノワグマと遭遇することによる人身被害が多発する中、顔を伏せてうつ伏せになる防御姿勢が重症化防止に有効であることが、秋田大学大学院医学系研究科の宮腰尚久教授、木村竜太助教、石垣佑樹医員と秋田県自然保護課の共同研究で分かった。
研究グループは2023年度に秋田県内でツキノワグマと遭遇してけがを負い、医療機関を受診した人を対象に、秋田県が保有するクマ外傷人身事故情報と医療機関のカルテ情報を連携させて解析した。
その結果、2023年度にクマによる被害を受けたのは70人で、県内14病院を受診していた。重症者(多発外傷、全身麻酔を要した外傷、指や手足の切断)は23人であった。被害者のうち、防御姿勢(うつ伏せ)をとることができたのは7人(全体の10%)であり、この7人には重症者はいなかった。また、被害者の約60%が「里地」や「居住地」といった人の生活圏内でツキノワグマに遭遇していた。
環境省によると、全国で2023年度に発生したツキノワグマ、ヒグマによる人身被害は198件で、219人が被害を受け、6人が死亡した。特に秋田県など東北地方で被害が多く、秋田県の被害者70人は過去最多を記録している。
本研究は、クマに遭遇した際にうつ伏せによる防御姿勢をとることで重症化を防いでいる可能性があることを、実際のデータに基づいて示した初の報告である。環境省や各都道府県は、クマと遭遇した際には顔面や頭頚部、体幹部の負傷を避けるため、うつ伏せの防御姿勢を取ることを推奨しているが、今回の研究でその効果が科学的に裏付けられた。