島根大学生物資源科学部の山口陽子助教は、海底に生息し「海の掃除屋」と呼ばれる原始的な脊椎動物ヌタウナギの成長効率や寿命について、世界で初めて詳細に解明した。研究成果は2025年6月発行の国際学術雑誌「Zoological Science」に掲載され、表紙を飾るカバーイラストに選出された。
ヌタウナギは脊椎動物で最も原始的とされる円口類の仲間で、ウナギと名称がついているものの、かば焼きなどで食べられている硬骨魚類のウナギとは類縁関係が遠い。世界の温帯の海に広く生息し、主に遺骸などを食べて暮らす腐肉食性の生物(スカベンジャー)である。島根県では県西部を中心に重要な漁業資源として漁獲され、韓国に輸出されているが、これまでその生態には謎が多かった。
本研究では、1年半から3年半にわたる長期飼育実験を実施し、個体識別タグを付与した複数のヌタウナギについて、毎月の体長・体重の測定、摂餌量、エサの消化・排せつまでの期間など詳細な成長記録を採取した。さらに、これらの新たなデータを島根県水産技術センターが蓄積してきたヌタウナギの記録と統合し、解析した。
その結果、ヌタウナギはエサをまとめて摂取し、摂取してから平均2週間で消化を終え腸とほぼ同じ太さの糞として排せつするという極めて低代謝な生態を持つことが明らかとなった。
また、ヌタウナギの生殖腺が発達するのは最短でも4歳以降であり、実際に漁獲される多くの個体は6~9歳と推定されること、少なくとも50年以上生きることが示唆された。さらに、ヌタウナギの雌は大きな卵を少数産み、孵化に1年以上かかることは知られていたが、今回、産卵頻度も2〜3年に1回と低く繁殖効率が非常に低いことも分かった。
このような生態から、ヌタウナギが一度個体数を減らすと自然回復するまでに長い時間がかかると考えられる。海底に大量に生息しているといわれるヌタウナギだが、実は環境変化や漁獲の影響を受けやすく、管理を誤ると個体群の回復は困難になりかねない。山口助教は今後、自然環境課での生態観察や生理学的な調査を進めていく必要性を指摘している。
論文情報:【Zoological Science】Growth, Feeding, and Age of the Inshore Hagfish, Eptatretus burgeri