金沢大学の研究グループは、これまで「深層筋(インナーマッスル)に届きにくい」とされてきた筋電気刺激(Electrical Muscle Stimulation、EMS)を干渉低周波という独自の電気刺激方法で応用することにより、深層筋にも有効な刺激を与えることに成功した。
体幹や骨盤周囲の深層筋(腹横筋や腸腰筋)は、立位保持や歩行、姿勢維持に関与する重要な筋肉だが、随意的な筋収縮(トレーニング)では十分に働きにくいため、特に高齢者における深層筋の維持が課題とされている。
一方、EMSは電気刺激によって筋肉を収縮させる技術の1つで、筋力増強などを目的にリハビリテーション領域でも用いられているが、主に表層筋への刺激にとどまり、深層筋への効果は限定的とされてきた。
本研究グループは、深部まで電流を到達させやすい特性を持つ干渉波に注目した。干渉波は、これまでは主に疼痛緩和に用いられてきたというが、周波数と波形を適切に制御することで、筋収縮にも応用可能であることが示唆されている。
そこで、健康な若年男性を対象に、干渉低周波(400Hz、420Hz、ビート周波数20Hz、最大出力28mA)によるEMSを行い、深層筋に与える効果を検証した。筋活動の評価には、筋肉の糖代謝活性(エネルギーの取り込み量)を画像として可視化するPET-CTを用いた。
その結果、腹横筋、腸腰筋などの深層筋において干渉低周波EMSによる有意な糖代謝の上昇が確認された。すなわち、干渉低周波EMSが深層筋に対しても有効な刺激を提供できる可能性を、定量的かつ科学的に実証したものといえる。
この知見は、加齢や疾病によって深層筋の活動が低下した高齢者や運動困難者への新たな介入法として、転倒予防や体幹機能改善などへの臨床応用が期待される。