東京医科歯科大学の武部貴則教授の研究グループは、シンシナティ小児病院との共同研究で、胎内で肝・胆・膵領域が発生する過程を模倣することによって、世界に先駆けてヒトiPS細胞から連続した複数(肝・胆・膵)の臓器を同時発生させる技術を確立した。さらに、多臓器の形成に異常が生じる遺伝疾患を、試験管内で再現することに成功した。
近年、ヒトiPS細胞などの未熟な幹細胞から特定の臓器を人為的に創出する試みに注目が集まっている。しかし、特定の臓器のみ(単一臓器)の誘導では、隣接した複数臓器間の連結が再現されない。このため目的の臓器機能が充分に発揮されない、または、持続しないなどの重大な未解決課題が存在していた。
本研究では、発生初期段階で生じる前腸・中腸とよばれる前駆組織の境界領域(バウンダリ)およびその周辺細胞の細胞間相互作用に着目し、それらの再現を試みた。まず、ヒトiPS細胞から前腸および中腸組織を別々に誘導。次に、それらを連結させ、前腸・中腸境界(バウンダリ)を作成したところ、肝臓・胆管・膵臓の前駆細胞が、その境界領域より自発的に誘導された。
さらに、これら肝・胆・膵前駆細胞の出現には、レチノイン酸シグナルなどの分子のやり取りを介した複雑な細胞間相互作用が必要であることもつきとめた。さらに、得られた組織の培養方法を最適化することにより、長期間の特殊な3次元培養により、試験管内で誘導した前駆細胞から肝・胆・膵組織を、その連続性を保ったまま発生させることに成功した。
今回の研究成果より、単一臓器再生から多臓器一括創生へ、全く新たなコンセプトに基づく臓器創生技術が今後広まると期待される。
論文情報:【Nature】Modelling human hepato-biliary-pancreatic organogenesis from the foregut–midgut boundary