愛媛大学沿岸環境科学研究センターの野見山桂准教授らの研究グループは、野生のニホンザルを対象に妊娠初期・中期・後期におけるそれぞれの胎仔の脳中から、脳神経発達に悪影響を及ぼすポリ塩化ビフェニルおよびその代謝物を、世界で初めて検出した。
近年、ポリ塩化ビフェニル(PCB)(注)の代謝物である水酸化物PCB(OH-PCB)の脳神経発達への影響が疑われており、ヒトでは発達障害と胎児期におけるPCB摂取の関連が指摘されている。胎児・幼児期のOH-PCBの体内挙動解明とリスク評価が求められているが、胎児に関するOH-PCBの分析事例は少ない。霊長類ではヒト臍帯血の報告例はあるが、胎児組織を対象としたOH-PCB研究の報告は皆無だった。
今回、野生のニホンザルを対象に、妊娠初期・中期・後期における胎仔の脳・肝臓・胎盤を対象にPCBとOH-PCBの分析を行った。その結果、脳・肝臓・胎盤試料全てからOH-PCBを検出。ニホンザルの胎盤を介した母子間移行、ならびに発達の極初期段階(胚期)から脳に移行・残留することが示された。特に初期胎仔発達段階(胚仔期から中期胎仔期)に汚染物質の移行量が著しく上昇していた。脳中濃度レベルは、先行研究で報告されている脳神経細胞発達抑制濃度以上が認められ、脳へ移行したOH-PCBによる神経発達影響が危惧される。
以上の結果から、感受性が高く発達の著しい初期発生段階の胎仔に対するOH-PCBの潜在的なリスクが懸念される。今回の結果により、PCB汚染レベルがニホンザルより高いと推察されるヒト胎児でも類似の移行・蓄積の可能性が極めて高いと考えられ、脳神経系への影響評価が求められるとしている。
注:ポリ塩化ビフェニルは広く工業使用されていたが、その有害性から現在は使用禁止。処理の遅れや不正廃棄による環境リスク拡大が懸念されている。