野生のイルカで、育児経験のない若い雌が血縁関係のない子を里親として育てる行動が見られることを近畿大学農学部水産学科の酒井麻衣講師らが発見。イルカが属する鯨類で里親行動が確認されたのは世界初であり、英国生命科学系雑誌 「Scientific Reports」電子版に掲載された。
伊豆諸島御蔵島の周辺には、野生のミナミハンドウイルカが約120頭生息しており、御蔵島観光協会により個体識別調査が20年以上続けられている。近畿大学の研究グループは同協会と協力して調査・観察を続けてきた。この調査の中で酒井講師らは、生まれてすぐ母親が死んだ子が、その後育児経験のない若い雌と一緒に泳いでいるのを発見。詳しく調べたところ、この雌は授乳だけでなく、一緒に泳いだり胸ひれでなでたりしていたという。この里親行動は102日間続いた。
実の母親と里親になった雌のDNAを採取し照合したところ血縁関係はなく、また両者に並んで泳ぐなどの「親和的社会関係」もなかったという。育児経験のない若い雌が里親行動をしたきっかけについて研究グループは、実の母親が何らかの事故にあった時たまたま近くにいて、赤ちゃんに近づいたのではないか、とみている。
血縁関係のない子を世話する行動は、霊長類など一部の動物では見られているが、鯨類ではなかった。イルカのもつ「他者を助ける」という特性が、今回の事例につながった可能性があると考えられ、今後はその特性が里親行動に影響を与えたのかどうかを明らかにしていくという。人間のように複雑な社会で暮らすイルカの行動に関する研究は、人間社会における「助け合い」のルーツを紐解くヒントともなりうると注目されている。