東京工業大学の笹川崇男准教授、東京大学の近藤猛准教授らの研究グループは銅の酸化物でできた超伝導体において超伝導できない超伝導電子を発見しました。この不思議な状態を詳しく調べればこれまで解明されていない超伝導のメカニズムを解明したり、室温でも超伝導が起こる物質の開発にもつながるかもしれません。
金属などの物質中を電気が流れるとき、通常なら電気抵抗のためにエネルギーの一部は失われてしまいます。これを減らすことは今日のエネルギー問題を解決するための重要な課題のひとつです。超伝導とは物質の電気抵抗がゼロになる現象で、超伝導体で電送網を整備すれば、エネルギーロスを大幅に減らすことができます。ところが物質が超伝導状態になるには-180℃以下の低温まで冷却することが必要です。そのため多くの研究者たちは室温での超伝導の実現に向けて、より高温で超伝導現象が起きる物質の探索を続けています。
超伝導体の研究では温度を上げていくと超伝導が起こらなくなる転移温度というものが重要になります。一般的な超伝導体では、温度が転移温度まで上昇すると電子の状態が変化してしまうために超伝導が起こらなくなることが分っていました。今回の研究では、現在最も高い転移温度が確認されている銅酸化物で、温度を上げていくと超伝導は起こらなくなるものの超伝導に特徴的な電子状態は1.5倍程度高い温度まで保たれていることを発見したのです。これまでこうした物質は見つかっておらず、超伝導現象のメカニズムの解明への重要な手掛かりになるでしょう。さらに室温超伝導の実現への大きなステップとなることが期待できます。
もし室温超伝導が実現すれば家庭や産業用の電送網のほか、2027年の開通を目指しているリニアモーターカーにも用いられることでしょう。そんな私たちの社会基盤を一新する可能性を秘めた超伝導が実現する日のことを考えると期待に胸が膨らみます。