認知心理学を専門とする追手門学院大学心理学部の乾敏郎教授の研究チームは、身体の平衡感覚をつかさどる前庭および三半規管の感度が高い人(=乗り物酔いをしやすい人)は、そうでない人よりも「他者の視点を知覚する能力が高い」ことを明らかにした。

 研究チームは、対人コミュニケーションで重要な「他者の視点を知覚する能力」に関する脳内メカニズムについて、「他者の視点を理解しようとすると、前庭および三半規管の反応を利用して、イメージの中で他者の位置まで身体を動かすシミュレーションが頭の中で発生する」と仮説をたてた。また、平衡感覚など身体の動きは耳の中にある前庭および三半規管で知覚され、先行研究からこれらの器官の感度が高い人は乗り物酔いをしやすいため、「乗り物酔いをしやすい人は、そうでない人よりも仮説で示したシミュレーションが早くできる」ことを実験を通して検証した。

 実験は、学生476人を乗り物酔いしやすい人と乗り物酔いしない人にわけ、このうち「他者視点取得」の実験には、乗り物酔いしやすい人18人としない人13人が参加。回転する台の上に人形と動物のぬいぐるみを対面させて被験者の前に設置。動物のぬいぐるみの右耳もしくは左耳に印をつけ、人形から見て動物のどちらの耳に印があるかを参加者が回答し、その速さを測定した。

 印の左右や被験者の見る角度を変えて測定した結果、乗り物酔いしやすい人の平均値は、しない人よりも統計的に有意に速いことを確認。また回転角度が大きいほど時間がかかることもわかった。これらの実験結果から、平衡感覚をつかさどる前庭および三半規管の感度が高い人(=乗り物酔いをしやすい人)は、そうでない人よりも「他者の視点を知覚する能力が高い」ことが裏付けられた。

 今回の発見は、他者の動作などを把握する際のベースとなる機能に個人差があることを明らかにし、社会性やコミュニケーション能力の形成過程を考える上で重要な知見といえる。前庭および三半規管を鍛え感度を高めることで、発達障害の子どもの社会性やコミュニケーション能力の向上につながることも期待される。

 また、脳のある部位が損傷すると発生する「幽体離脱」のメカニズムについても、脳が損傷することで他者がいないのに無意識のまま前庭および三半規管による身体を動かすシミュレーションが発生してしまい、あたかももう一人の自分が別のところにいるように認識してしまうことだと説明できるという。

 研究結果は、2018年9月に開催される日本認知心理学会で報告する予定。

参考:【追手門学院大学】幽体離脱のメカニズムも明らかに 「他者の視点で考える」脳内メカニズムを認知心理学から解明(PDF)

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