東京工業大学の高安美佐子教授らは、ドル円市場の売買注文記録をトレーダー個々のレベルで分析し、ボルツマン方程式を用いて、市場の様々な特性を理論的に導出することに成功した。
100年以上前から金融市場の価格変動は確率的にランダムに振舞うことが知られており、この動きは水中を漂う微粒子のブラウン運動と非常によく似ている。しかしながら、なぜ物質と金融市場の現象が類似した振る舞いをするのかは分かっていなかった。
今回、同グループは、学術研究用に提供されたドル円市場の売買注文の個々人の注文ログデータを解析し、トレーダーが過去の価格変化を元に上昇(下降)トレンドにあるときは、追随して自分の指値を上げる(下げる)トレンドフォロー戦略を採用していることを初めて定量的に示した。さらに、これらの行動法則を取り入れたトレーダーの集団による市場モデルを構築し、「市場価格をブラウン粒子、指値注文をブラウン粒子に衝突する水分子」と対応づけることによって、ブラウン運動と金融市場が同じ方程式に帰着されることを示した。これにより、長年の謎だった全く異なる分野の2つの現象が類似している理由をミクロレベルから明らかにした。
ボルツマン方程式による理論解析は、価格変動や売買注文の分布などの基本的な特性が全て現実の市場特性と整合しており、今後、金融市場の暴騰や暴落などのメカニズムを解き明かすなど、様々な応用研究での利用が期待される。