大阪大学大学院人間科学研究科/大阪大学感染症総合教育研究拠点の三浦麻子教授らの研究グループは、アフターコロナ期における日本人のマスク着用に社会的規範が与えた影響を検証した。
本研究は、2022年10月から2000名の日本在住者を対象に実施されてきた長期にわたるパネル調査データから、マスク着用が個人の判断(2023年3月)となり、さらには新型コロナが5類に引き下げられた(2023年5月)アフターコロナへの重要な転換期を含む期間のマスク着用率の推移を分析したもの。政府による着用ルールや行動制限全体の緩和後も、マスク着用率が急減することはなかった。
社会的規範のうち、「政府が推奨している」という命令的規範(法律などによって強制されるルール)がマスク着用に及ぼした影響はそれほどではなく、マスク着用の動機は、命令的規範の遵守というよりむしろ「私がしたいから」という個人の判断によるものであることがわかった。マスク着用とシステム正当化傾向(社会システムや体制を合理化し、支持する心理的傾向)の間に関連は認められず、アフターコロナ期のマスク着用は、命令に従おうとする心理によって説明できるものではなかったという。
また、社会的規範のうち、「周囲が着用している」という記述的規範(多くの人が自然に従う慣習や行動パターン)については、マスク着用率を高める方向に作用はしていたが、相対的な影響は小さかったという。従って、いわゆる「同調圧力」と声高に言われたほど強くはなかったことが示されたとしている。
これらの結果から、コロナ禍を題材に、私たちの行動と社会状況の変化との複雑な関係の一端を明らかにした研究といえる。