東京都立大学大学院の古市泰郎准教授らのグループは、筋芽細胞を細胞外基質(ECM)液に浸して移植することで、損傷していない骨格筋に細胞の生着を実現し、骨格筋重量を約10%増加させることに成功。運動が困難な患者や高齢者に対する即効性のある治療法の可能性を示した。
加齢や不活動に伴う骨格筋の萎縮は、運動能力の低下、生活の質(QOL)の悪化、様々な疾患への抵抗力の減少を生じる。しかし、高齢者や筋萎縮者では筋力トレーニングのような負荷の高いトレーニングは難しい場合がある。そのため、骨格筋の幹細胞を利用した再生医療が注目されているが、筋の幹細胞の移植は骨格筋組織の損傷がある筋疾患には有効でも、加齢による筋萎縮など筋線維がやせ細るだけで損傷していない場合、細胞は生着しない。
研究グループは、細胞外基質(ECM)を用いる新しいアプローチでこの課題を克服した。培養した筋芽細胞を、ECMを含む液に浸してマウスに移植することで、筋線維の損傷がなくても細胞が生着し、筋量を増加させることに成功。さらに、移植細胞の数を増やすことで、コラーゲン沈着による線維化を抑えつつ、生着効率を高められることも確認した。これにより、骨格筋重量が約10%増加するという成果を得た。
今回の研究は、損傷していない骨格筋に対する細胞移植の有効性を初めて示し、骨格筋再生医療の新たな道筋を切り拓くもの。今後は、ECMのいずれの因子が細胞の生着に関与するかを解明し、ヒトへの応用を目指した研究を進めるという。加齢性筋減弱症や廃用性筋萎縮症など、運動が困難な患者に対する画期的な治療法となることが期待されるとしている。