2025年4月、植草学園大学に看護学部が誕生する。
「誰をもやさしく包み込む共生社会を実現する」という学園ビジョン(将来像)を掲げ、多様化が進む社会にあって、人と人が互いを理解し、支え合える社会を創っていく。そんな共生社会の実現拠点となることを植草学園大学は目指している。
前身の千葉和洋裁縫女学校が1904年に誕生。以来、徳育を建学の精神とし、道徳心を養い、豊かな人間性を培う教育方針を掲げ教育・研究に取り組んでいる。植草学園は2024年に創立120周年を迎えた。

 今回、看護学部の新設にあたり、中澤潤学長にお話を伺った。

 

地域医療を支える看護師育成という重要な役割

 少子高齢化が加速度的に進み慢性的な人材不足が課題となっている医療業界。医療のみならず、介護、保育、教育など、様々なシーンで看護師のニーズは高まる一方だ。

 植草学園大学の看護学部の新設は、共生社会を標榜する同学において大学設置当初からの構想でもあった。複雑かつ高度化する医療に対応できうる看護職等の育成に関し、多方面から千葉県内の医療を支える重要な一翼を担うことが期待されている。

 近年、医療の複雑化、高度化、さらには看護師不足といった課題を背景に、全国各地の国立病院機構で看護系大学との連携強化が図られている。病院内や隣接する敷地にキャンパスを持つ大学も少なくない。病院と大学、現場と教育が一体となって、将来を担う人材育成に取り組んでいる。
国立病院機構と隣接するキャンパスを持つ大学の例

 植草学園大学も、地元千葉県において相互の教育・研究の一層の進展と地域社会の発展に寄与することを目的として、2023年7月14日、国立病院機構千葉医療センターと包括連携に関する協定を締結した。

 その他に、千葉県内の国立病院機構3病院とも連携を図り、高い専門性と実践力を持つ看護師の育成に取り組む。男女共学で定員は1学年80名を予定。看護師の国家試験受験資格に加え、保健師の国家試験受験資格や養護教諭二種免許状の資格取得が可能だ。

※看護学部の新キャンパスは国立病院機構千葉医療センター附属千葉看護学校(千葉市中央区椿森)の跡地を引き継ぎ、新たに設置される。最新のシミュレーターを配置し、規模を拡張した看護実習室や、オーディオ・ビジュアル設備を充実した講義室で、看護技術や知識を修得する授業を効果的に受けることができる。また、臨地実習の準備や振り返りなどを行う実習の拠点にもなる。

 

新キャンパスに設けられる看護実習室(イメージ)

 病院に隣接する教育機関として、病院の看護師の方々と学生の実習指導や研究などを通して交流を深め、ともに成長していきたいと中澤学長は話す。

実践力を養い、専門性を広げるカリキュラム

 2025年度より看護学部、保健医療学部、発達教育学部の3学部構成となるが、医療・教育分野は相互に関連性も深い。心理学などは3学部共通で千葉市若葉区にある千葉若葉キャンパスで受講する。さらに、専門職連携論では、看護とリハビリテーション、保育と看護、作業療法と発達教育など、学生それぞれが専門性を発揮しながら、様々なケースに必要な支援を考え、互いの専門性を理解しながら連携していくことを学ぶ。

 植草学園大学看護学部が目指すのは、あらゆる成長発達段階および健康状態にある人々、さまざまな環境下で生活する人々が、その人らしい暮らしを続けていくことのできる地域共生社会の実現に貢献する看護師・保健師の育成だ。そのために、特に地域に根付く地元の大学として、カリキュラムでは、地域共創ケアⅠ~Ⅲを1年次~3年次の必修科目とし、地域共創ケアセンターを設置する。本センターは地域に拓かれた拠点とし、地域の人々と交流を図りながら、多様な人々との接点による学び合い、ヘルスケアニーズの把握と対応方法を検討していく。これらの科目を通して、地域の課題などを体感し、地域とのつながり、人々の「生活」を大切にした看護力を養う。

 臨地実習は、国立病院機構千葉医療センターをはじめ、千葉東病院、下志津病院、下総精神医療センターの4病院を予定している。いずれも、千葉の医療を支える基幹病院だ。国立千葉医療センターでの実習は、新校舎に隣接していることで、実習先と担当教員とのコミュニケーションがより図りやすく、学生の事前事後学習も効果的にできるメリットがある。国立病院機構の4病院の他にも、小児、成人、老人などの発達段階や、急性疾患や慢性疾患、精神疾患などのある多様な看護の対象を理解し、看護実践力をつけるために、千葉県内の病院、保育園、福祉施設、地域施設、保健・福祉センター、保健所、小・中学校など様々な施設で充実した実習を展開する。

 学生は、自身の興味や関心にあわせて多様なキャリアの教員、また特別な講師陣から、現在の医療の実情と経験を学び専門性を高めていくことができる。例えば、災害看護については、国内外の被災現場で支援活動を行っている講師を非常勤講師として招いたり、国際医療協力プロジェクトに所属する病院看護師が、非常勤講師として災害看護学概論、災害看護学演習等の授業を担当したりする。大学院で災害看護学を学び、独立行政法人国際協力機構(JICA)国際緊急援助隊で看護師として海外での活動実績を持つ教員が、グローバルヘルス看護学、災害看護学等の教壇に立つなど、専門性の高い授業が行われる。
千葉医療センター附属千葉看護学校(千葉市中央区椿森)の跡地を引き継ぎ、看護学部の新キャンパスとなる

 学びの広がりとともに、将来的には、大学院を設置し、修士、博士といった研究分野の強化もしていきたいと中澤学長は展望を語った。

手厚い学生サポート

 看護師を目指す学生にとって、重要なポイントの一つは、国家試験対策だろう。飯島千恵子看護学部設置準備室・室長は、国家試験対策は4年次だけでなく、1年次から着々と積み上げていくと話した。

 電子教科書を導入し、国家試験を念頭に知識・技術の定着を図るため関連した項目や過去の試験問題が出てくるなど、効率的に学習を進められる。全公開型無線LANもキャンパス内に整備し、キャンパス内ではWi-Fiをつなげばどこでも学修環境をセットアップできる。事例や文献などの調べものの検索も可能。図書館、自習室も完備し、わからないことは、いつでも教員に聞けるサポート体制も整える。

 また、看護師を目指す意欲ある学生を、費用面からもバックアップできるように、国立病院機構等とも連携し、各種の奨学金を用意。学生寮も、キャンパスから徒歩圏内とあらゆる面から学生の負担軽減を図る。

看護師という仕事、看護学部で学ぶということ

 卒業後は、大学と包括連携協定を結ぶ千葉医療センターなど県内の国立病院機構をはじめとする医療の分野、地域ケアにかかわる福祉や行政の分野での就職を支援。病院の他、診療所、訪問看護ステーション、社会福祉施設(高齢者施設、児童福祉施設)、自治体の保健所、保健センター、地域包括支援センター、一般企業などへの就職、また大学院への進学など幅広い分野への進路が広がっている。

 看護師国家試験の近年の状況を鑑みても、大卒受験者の数は年々増加。医療技術の進化、多様化よって、技術のみならず教養や知識、対人面などにおいても看護師が身につけなければならないものは増すばかりだ。しかし、看護は知識や技術だけではない。どれだけ新たな技術が取り入れられ、多くの人々の健康に寄与するようになっても、人が人を看るという、テクノロジーには決して代替できない看護というものが依然として存在する。

 だからこそ、人に寄り添い、専門職としてのキャリアを自ら選び取り、継続して自己研鑽できる志や意欲が看護師には必要とされているのだ。

 植草学園大学では、看護学部で学ぶということ、そして看護師という仕事への理解を深めるために、オープンキャンパスや各高校での出張模擬授業などを行っている。

 例えば、看護実践と看護学教育・研究の経験豊富な看護教員が、「手術を受ける患者の看護」のテーマで高校生に分かりやすく模擬授業を行っており、私たちの暮らしや生活を支えている「看護師」という仕事やその大切さについて考える機会を提供している。

 春になれば一期生が入学してくる。迎える教員も、新たな学部をともに創っていく学生に、あれを教えたい、これも準備しなければと期待を胸に慌ただしい日々を過ごしているという。

※保健師は学内選抜による定員設定あり
※養護教諭二種免許、第一種衛生管理者免許は保健師免許取得後に申請により取得可能

植草学園大学

中澤 潤 学長

広島大学教育学部卒。広島大学大学院教育学研究科修了後、千葉大学教育学部にて2017年まで教鞭を執る。2018年植草学園短期大学学長を経て、2019年より植草学園大学学長を務める。研究分野は教育心理学、発達心理学。

 

植草学園大学

誰をもやさしく包み込むインクルーシブ教育で、教育・保育・医療人のスペシャリストへ

植草学園大学は、発達教育学部(発達支援教育学科)・保健医療学部(リハビリテーション学科)の2学部2学科を擁し、多様な人と共に生きる、誰をもやさしく包み込む「インクルージョン」を担う人材育成をしています。知識、技能と共に、「徳育」を重視。多くの仲間や先生との交流[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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