筑波大学の丸山実那助教らの研究グループは、五つの炭素原子が環状に結合した五員環を組み合わせることで、新しい3次元炭素結晶の可能性を理論的に予言した。また、量子力学に基づいた物性シミュレーションから、この物質がダイヤモンドより軽くて強靭であることを示した。この成果は2020年6月30日付の科学誌「Physical Review Letters」で特に重要な成果として「Editors’Suggestion」に選ばれた。
黒鉛やダイヤモンドなど炭素の結晶は、古くから基礎科学ならびに応用科学の対象となってきた。これらの結晶は炭素原子間の化学結合が極めて強く、高い力学的強靭性と安定性を兼ね備えた機能性材料として、多くの注目を集めている。これまで合成または理論的に予言された炭素結晶は、ダイヤモンドと比較して特定の変形に対して高い弾性率(変形のしにくさ)を示すものは多かったが、トータルで高い弾性率を示すものは知られていなかった。
今回、研究グループは、炭素原子からなる五角形(五員環)の辺を共有させ、極めて対称性の高い3次元の炭素共有結合ネットワークが構築可能であることを幾何学的な考察から予言し、ペンタダイヤモンドと命名した。ペンタダイヤモンドは極めて強靭な炭素結晶で、ヤング率(一軸方向への変形のしにくさ)と剪断弾性係数(歪みにくさ)は、ダイヤモンドを遥かに凌駕する極めて強靭な炭素同素体であると判明。また、ペンタダイヤモンドは負のポアソン比(非常にひずみにくい性質)を示し、外力に対して通常の物質とは反対の構造応答特性を示す可能性があることも分かった。
今回の研究結果は、新しい炭素結晶の可能性を示すことで炭素物質科学の展開を強く促進するだけでなく、ペンタダイヤモンドを用いた耐衝撃材料の開発や各種機能性材料への応用が期待される。