東京工業大学の科学技術創成研究院生体恒常性研究ユニットの松田隆志特任助教、野田昌晴特任教授らの研究グループは、脳内において水分摂取を抑制する神経細胞を同定し、口渇感を調節する新たな脳機能の仕組みを初めて明らかにした。

 ヒトを含む脊椎動物では、体液のナトリウムイオン濃度は一定に保持される。これは体液恒常性と呼ばれ、生命維持に必須であり、飲水行動の適切な制御はそのために非常に重要だ。口渇感の異常からくる水分摂取の過度な抑制や過剰な水分摂取は何らかの病態を生じ、脳を含む多くの臓器に致命的な障害を発生させる。しかし、飲水行動を抑制するメカニズムについては不明点が多かった。

 研究グループはマウスを用いて、脳内の脳弓下器官(水分・塩分摂取、血圧制御に関わる器官)において神経伝達物質であるコレシストキニンを分泌する神経細胞(CCK作動性ニューロン)を同定。このCCKニューロンが活性化することで飲水行動が抑制されることを明らかにした。また、CCKニューロンは、体液のナトリウムイオン濃度の低下に応じて持続的に活性化する集団と、飲水行動に反応して一過性に活性化する集団の2種類が存在することを発見した。さらに、光遺伝学を用いて、それぞれのCCKニューロンの人為的活動制御を行い、マウスの飲水行動の制御に成功した。

 研究グループはこれまでに脳弓下器官において飲水行動の誘導をつかさどる神経細胞(水ニューロン)と、その神経回路を明らかにしている。今回、水ニューロンの活動調節メカニズムを初めて解明した。口渇感の異常に由来する水中毒や多飲症など、過剰な水分摂取により誘発される疾患の治療や予防法の確立に貢献するものと期待される。

論文情報:【Nature Communications】Distinct CCK-positive SFO neurons are involved in persistent or transient suppression of water intake

大学ジャーナルオンライン編集部

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