2022年4月、東洋学園大学は、2021年より学長を務めた愛知太郎氏の任期満了に伴い、新しい学長に辻中豊氏を迎えた。辻中豊学長は筑波大学副学長、東海大学副学長を経て、2021年9月より東洋学園大学理事、評議員を務め、今回の就任となる。
辻中豊学長は、2026年の100周年に向け、これまでの理念をさらにバージョンアップし、次の100年に向けて困難な時代をも生き抜くビジョンを示していきたいと話す。
東洋学園大学は、以下の理念を掲げている。
・時代の変化に応える大学
・国際人を育てる大学
・面倒見のよい大学
その理念は、創立者である宇田尚が生涯を通して学生に伝え続けた建学の精神「自彊不息(じきょうやまず)」に支えられている。自彊不息(じきょうやまず)とは、中国に伝わる五経『易経』の一節で、その意味は「自ら弛まず努力を続ける」ということ。「日々の努力を怠らず学びに励むことで成長し、社会を変えていく人間になってほしい」という創立者の願いは、いまなお東洋学園大学に息づいている。
世界情勢が激変する今、学長就任にあたり、学生に今伝えたいこと、また東洋学園大学が掲げる「国際人=グローバル人材」とはどういう人材なのか、辻中豊学長に聞いた。
辻中豊学長:
学生には、変化の激しい時代だからこそ、世界に対する「構え」をもって欲しいと考えています。「構え」とは、「考え方」と言い換えることができるかもしれないですね。
日本で育てば、日本というフレームを通してものごとをみるように、それは、他の国、アメリカでも中国でも、ロシアなどでも同じことです。ですから、自分たちがいる場所を絶対だと思わずに、隣の人、隣の国、それぞれが持つパースペクティブや背景を理解し、その比較の中で自分の考えを醸成していくことが重要です。
「グローバル人材」とは、単に英語だけができればよいということではありません。東洋学園大学では「英語を学ぶ」ということを、その特長の一つとしてあげていますが、もう一つの柱として置いているのが教養教育です。私は、教養とは「お互いが対話するために必要な共通の素材」だと捉えています。
例えて言うなら、古典や語学など、世界的に通用するような学問の塊といえるでしょうか。私の専門である政治学なら、ルソーやマキャヴェッリなどの古典といわれる哲学や思想について意見を交わし合うこと、歴史や統計という数字などの事実を共有すること、こうした世界の人と対話を深められる知識やその手段が教養であり、世界に対して偏見をもたず普通に付き合える人こそが、グローバル人材だと考えています。
本学の理念の一つ「時代の変化に応える大学」と聞くと、世の中を変えていくようなオリジナル(独創性)でイノベーティブ(革新性)な何か特別なものを、自分が創らなければと思うかもしれませんが、実は世界的にみれば、日本語を話しそれが理解できるということ自体がすでにオリジナルなのです。
自分自身という存在がそもそもオリジナルなんだということを、学生には理解してほしいですね。そして、自分のやりたいこと、自分が思っていることをしっかりと表現できたら、それが社会的、世界的なオリジナルにも、イノベーティブにもつながっていきます。
そのためにも、さまざまな体験を通して、自分の感受性が響く場所を見つけて欲しい。すでにやりたいことがあり、何かを目指している人はそれに突き進めばよいでしょう。
しかし、情報が溢れるこの時代に、将来や目標について迷う人が多いのも事実です。学生をみていると、机上ではなく、ものごとが動く社会の現場にでて新しい経験や考えに触れたとき、目の輝きがかわる瞬間があります。ですから、自分のフィールドとなる場所を見つけるために行動し、目からウロコの落ちるような体験をぜひして欲しいのです。
東洋学園大学は、日本の文化・経済・政治の現場、成長点を目の当たりにできる東京の中心部に位置していますので、その地の利を最大限に活かし、ここを拠点にさまざまな場所へ赴くことができます。また、面倒見のよさを標榜する大学として、私たちも学生が自分のフィールドを見つけられるよう多くの機会を用意します。
「自彊不息(じきょうやまず)」は、本学の建学の精神ですが、今の時代にあわせて私なりに解釈するならば、「彊」の字のごとく、田を区切り、弓をもって田を守る、自分の田となるフィールドをみつけ、それを強化していく、つまり深めていくことがより大切な時代になったように思います。
世界の人々と対話するために必要なのは、客観的な比較やさまざまな視点で相手、そして自分を知ることと同時に、興味ある分野で自分を表現できることなのではないでしょうか。
来たる100周年に向けて、学生をはじめ、教職員、保護者の方々や卒業生など、この大学に関係する多くの人と対話を深めながら、そのエネルギーをまとめて東洋学園大学をよりよいところに持っていく、それが私の役割であると考えています。私自身も学びながら、みなさんと一緒に進んでいけたらと思います。